4.

1/3
前へ
/19ページ
次へ

4.

 静かな魔王城に、2つの足音が響く。  玉座の間にて、魔王と勇者は向かい合っていた。  玉座に座る魔王は、慣れ親しんだ座り心地を味わうように、ひじ掛けをさすっている。うっすらと笑みを浮かべているような、穏やかな顔をしていた。  運命は断ち切った。これでもう、魔王は生まれない。 「なかなか良い城だな」 「ああ。君にやろう」 「いらねぇよ」 「このまま根無し草でいいのか?」 「いい。またあちこち見て回るさ」 「君との旅はいいものだった。忘れてしまう前に、逝くとしよう。私の生はあまりに不浄だった」 「あんたのせいじゃねぇよ。約束通り、もてなしてもらいたいところだが、従者がみんないなくなっちまったしな」 「そうなんだ。申し訳ない」  「はは、」と、まるで旧友のように、兄弟のように。  気安く笑い合う声があたりに響く。 「こうして対峙するのが、本来の、正しい出会いだったんだ」 「普通に出会ってたら俺には無理だな。なんだよ、あのでっかい剣」 「いいや、私はここで討伐される運命なのだ。勇者は唯一の弱点……。私は君に抗えないのだよ」 「……すべて、あんたの思惑通りになったな」 「……君にしかできないことだ」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加