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 勇者は剣を抜いた。やはり錆びついた金属の不快な感触には慣れない。 「全能神とやらはこの世界をどうするだろう」 「さぁ。知ったこっちゃねえよ。俺たちにとっては、今後、魔王と勇者が生まれないことに意味がある」 「この世は誰のものでもない。人のものだね。我らも含めて」 「そうだ。魔王の居ない世に勇者は必要ない。二人で、居なくなろう」 「それは君が天寿を全うした時こそ、叶う。今後は最後の勇者らしく、魔の者の討伐に勤しむがいい」 「それはできないな。俺の、人への気持ちは変わらない。――もう、救いたいものが……無いんだ」 「いいや、君はやり遂げる。それが私の最後の望みだからだ」 「……狡いな」  剣先を魔王の胸へと当てる。それは宿命であり運命への謀反――。  魔王は震える勇者の手に自らの手も添えて、人らしい、自然な笑顔を見せた。   「来世では、友として」 「ああ。家族でもいいな」 「ずっと、寂しかったよ。ありがとう。さらばだ」  勇者は、魔王が神の使者たちのように光となって消え去ることを望んでいたが、腕の中に亡骸が残った。  人の姿に戻ることもなく、魔王は魔王のまま――。  それでも勇者の心は晴れ晴れとしていた。  一人残された魔王城。静寂の魔王の間には、勇者が吐いた独り言が静かに響き渡る。 「俺は、今、寂しいよ」  了
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