1.

2/5
前へ
/19ページ
次へ
「こんなところにいたのか」  突然声をかけられたことよりも、声の主が突然あらわれたことに驚いた。あたりを見回すまでもなく、草木も生えぬこの荒野には人影の1つも無かったはずだ。 「……なんだ、おまえ。どっから湧いた?」  「酷い世の中だな」 「ああ。まったく」  「ここで何をしている?」 「魚でも……いや、無駄だな。いやしねぇか。腹の足しになるものを探していたんだが、あんた、何か持ってないか?」  はなから色よい返事は期待せず、男はありのまま、思うままを返した。問いかけには答えず、好き勝手を話す相手に気兼ねする必要もない。  憐憫の文化はとうに廃れている。食べ物の無心をしてきまり悪くなるまでもなく、どうせ聞き流されるだけだ。   「日ならずして、人の世は滅びるぞ」 「ハハ! そうだな」  会話とはこんなにかみ合わないものだったか。思わず笑いがこぼれた。  人と話すのも数年ぶりで分からない。相手から、何やらおかしな気配を感じるのもそのせいか。もしくは、気が触れて幻影でも見ているのかもしれない。  本当にここに存在しているのかと、あらためてその姿に目を向けてみると、思いのほか大きな男だった。  漆黒のローブの、目深にかぶったフードで影になった顔の中で目だけがいやに目立つ。  何色とも言い難い瞳と視線が合った瞬間、ぞわりと体中の毛が逆立ち、男は反射的に剣を取り身構えていた。  そんな男の行動など意に介さず、ローブの大男は一歩進み出て距離を詰めてきた。 「あなたが魔王を倒さぬからだ」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加