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「こんなところにいたのか」
突然声をかけられたことよりも、声の主が突然あらわれたことに驚いた。あたりを見回すまでもなく、草木も生えぬこの荒野には人影の1つも無かったはずだ。
「……なんだ、おまえ。どっから湧いた?」
「酷い世の中だな」
「ああ。まったく」
「ここで何をしている?」
「魚でも……いや、無駄だな。いやしねぇか。腹の足しになるものを探していたんだが、あんた、何か持ってないか?」
はなから色よい返事は期待せず、男はありのまま、思うままを返した。問いかけには答えず、好き勝手を話す相手に気兼ねする必要もない。
憐憫の文化はとうに廃れている。食べ物の無心をしてきまり悪くなるまでもなく、どうせ聞き流されるだけだ。
「日ならずして、人の世は滅びるぞ」
「ハハ! そうだな」
会話とはこんなにかみ合わないものだったか。思わず笑いがこぼれた。
人と話すのも数年ぶりで分からない。相手から、何やらおかしな気配を感じるのもそのせいか。もしくは、気が触れて幻影でも見ているのかもしれない。
本当にここに存在しているのかと、あらためてその姿に目を向けてみると、思いのほか大きな男だった。
漆黒のローブの、目深にかぶったフードで影になった顔の中で目だけがいやに目立つ。
何色とも言い難い瞳と視線が合った瞬間、ぞわりと体中の毛が逆立ち、男は反射的に剣を取り身構えていた。
そんな男の行動など意に介さず、ローブの大男は一歩進み出て距離を詰めてきた。
「あなたが魔王を倒さぬからだ」
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