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口元が笑みの形に歪んだ。肯定と取っていいだろう。勇者はすっくと立ちあがり、大男と真正面に向き合った。
「姿を見せて見ろよ。魔王ってのは人の形に成れるのか? それとも?」
大男が返事の代わりにフードをはだける。その姿は、幼いころ絵本で見た、漆黒の髪をたたえた美しき冥王の姿によく似ていた。
「へぇ。そんなに恐ろしげなものでもないんだな。もっと、こう、長くて曲がりくねった角でも生えてるのかと思ったぜ」
「角なら、ある」
そう言って魔王は頭の角度を変え、髪をかき分けて見せた。
なるほど、耳の上にちいさな角がある。形は羊のものに似ているが、磨かれた象牙のように艶やかで闇の中の光明を思わせた。
「綺麗だな」
「気に入ったか? あらゆるものを誘惑するため、悪しきものは魅惑的に作られるものだ。それ以前に、私たちはお互い引き遭う運命にある」
「そっちが一方的に出向いてきたんじゃねえか」
「微かな気配を辿り、ようやく見つけた」
「ご苦労なこったな」
「それなのに勝手に廃業など、自然の摂理に反する」
「なぁ。そこまでの話か?」
魔王の言う通り、役割の放棄さえしなければ、いつかどこかで相まみえる運命だったはずだ。引き遭うと言うのが正しいかどうかは分からないが、確かに、魔王の目を見た時の衝撃はただ事ではない。
湧き上がる魔王への強い関心、これが性というものだとしたら――。己はやはり勇者なのだと、認めざるを得ない。
「気味の悪い血を受け継いだものだ。まぁ、どうせ暇だし腹もへった。行くよ、あんたの城へ」
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