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2.
魔王と共に魔王城を目指すことにしたわけだが、勇者にとってはこれまでとなんら変わりのない旅だった。
それどころか、魔王は道を示すだけで、何もしない。寝床も食事も勇者に頼りきりで、苦労が増えたくらいだ。
「もてなしてくれるというから付いてきてみたが、ずっと俺が世話してるじゃねぇか。自分の食い扶持ぐらい自分で何とかしろよ」
手際よく、火の準備をしながら勇者がぼやく。水の中に野草と穀物と何かの干し肉を放り込んだだけの鍋を焚火にかけ、魔王に棒切れを渡した。
「せめて、これくらいしろ。焦げ付かないように、これでぐるぐるかき回すんだ」
魔王は素直に応じ、ゆったりとした袖が鍋にかからぬよう、おさまえながらぎこちなく手を動かした。
「悪いね。できればそうしたいのだが、飲まず食わずの長旅で力が出ない」
「ずっと、飲まず食わずいられたのか? なら、いまさら食わなくてもいいだろ。俺の食う分が減る」
「生きとし生ける者は皆、何らかの糧を必要とする」
「おまえ、生き物なんだ。というより、魔王が普通のメシとか食うのかよ。こんなスープより俺の方が美味そうか?」
「まさか。私を何だと思ってるんだ」
「魔王」
「その通りだ。廃業などと世迷言をぬかしながらも、それが分かっているなら役割を果たすのに十分だ、勇者よ」
「……役割、ねぇ」
(つまり、あんたを倒せってことなんだよな。この世を救うため、か)
世界を救いたい魔王など、古今東西聞いたことが無い。
――宿命から目を背けるな。そう言った魔王こそ、運命の図式を崩しているのではないか。勇者はしばし思案した。
一見して、何代か前から命運に逆らっているかのように思える勇者たちだが、彼らとて、世界を救いたくないわけではない。それどころか、おそらく本能的には誰より強く願っている。
どうしたらすべてを救えるか。
最終的に行き着いた答えが、世界の一掃だった。人という生き物を根本から救うには、無からの再興、それしかない。それが何代も前の勇者が見出した境地だった。
終末までただただ見守ることも一種の救いとする勇者には、今、目の前にいる魔王を打ち倒す理由は見当たらない。
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