Fedelini&high fidelity Girl

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Fedelini&high fidelity Girl

 ロングパスタとおなじ名のフェデリーニは、ルンルン気分でお散歩中。  その犬は長毛のダブルコート種。毛が細くて長いという理由でその名を付けられた。  コバルトブルーとオフホワイトのツートーンがスタイリッシュな、伸縮リードを手にした飼い主がいきなり、「ところで『Hi-Fi』ってなんなのよ」と言った。  自分に聞いてるとは思わなくてフェデリーニはきょとんとしてる。飼い主は日頃からしょっちゅう話しかけてくるのだけど、フェデリーニにはたまに独り言と区別できないときがある。 「『Wi-Fi』の親戚かしら?」 (そんなわけない! どういう発想?)とフェデリーニは飼い主の顔を覗きこむ。  さっきから飼い主は買ったばかりのワイヤレスヘッドホンが繋がらなくて困っていた。フェデリーニはネットで調べればいいのにと思う。ワイヤレスヘッドホンが接続されない理由も、『Hi-Fi』の意味も、どっちも。 「困ったときはネット検索ね〜」  飼い主がスマホで調べだした。フェデリーニは自分の心の声が通じたのかと思って一瞬驚いたけど、(そんなはずはないか)とすぐに我に返った。でもちょっとだけ気持ちが弾みしっぽが踊ってた(♪)。 「えっと、Hi-Fiとは…っと」 飼い主が検索窓に文字を入力する。  フェデリーニは飼い主が、音楽を聴きながらお散歩するのに憧れていたことを知ってたので、『Hi-Fi』の意味よりも先にヘッドホンが接続されない理由を調べてほしいと思った。  ネット上の辞書によると、“high fidelity(高忠実度)の略。音や画像の再生にあたって、元のものに近い状態で忠実に再生されるとき、フィデリティが高いといい、このような再生状態をハイファイ再生とよんでいる” …とあった。  声に出して読んだあとに、「ふ〜ん、そういうことね〜」と飼い主は言った。 (ぜったい、理解してないやろ)とフェデリーニは疑った。 「ハイフィ? フィ、フィデ? フィデリティか〜。やっぱりね、ハイファイって略称なのね」  飼い主は一つ賢くなったことを喜んでいるようだったけど、すっかりヘッドホンのことを忘れてしまっていた。(お気楽な人だ)とフェデリーニは鼻で笑った。 「ハ〜イ、フィデリティ〜。ハ〜イ、フィデリティ〜♪」  略す前の正式名称を忘れないために、飼い主は歩きながら唄うように連呼した。きっと誰かに話したいのだ、とフェデリーニは感づいていた。飼い主は横文字を使いたがる。いつも知ったかぶりして自慢するのだ。でもそこが愛らしくもあるとフェデリーニはにやけた。  交差点に差し掛かると歩行者信号が点滅を始めた。飼い主はリードを強く引っ張る。 「は〜い、走るよ。フィデリティー!」 (「は〜い」に引っ張られて、わいの名前まちがえとるやないかい!)  フェデリーニは思う。音楽を聴かせてくれないヘッドホンも、知ったかぶりして自慢する飼い主も、どちらもHi-Fiとは程遠くフィデリティが低いな、と。 「あっ! ごめん、フェデリーニ! フェデリーニ、はやく!」  飼い主はもうすっかり「フィデリティ」を忘れてた。  横断歩道を走るフェデリーニのしっぽが踊ってた。  フェデリーニ&飼い主はルンルン気分でお散歩中!
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