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#最後のナポリタン
俺は、今日、人を殺す。
朝起きて、そう決めた。俺の人生をめちゃくちゃにした、あいつだけは許さない。あいつの顔を見るだけで、怒りのあまり気が狂いそうになる。もう、無理だ。絶対に殺す、今日中に。決心は揺るがない。
ビールの空き缶を蹴っ飛ばして部屋を出ると、階段を降りて居間へ向かった。タンスの引き出しからおふくろの財布を取り出し、札を掴んでポケットへ突っ込む。スウェット姿のまま、サンダルを突っ掛けて、玄関を出た。
今日中に殺人者となる俺に、残された時間は少ない。どうせなら少ない時間を、腹いっぱい美味いもんでも食って満喫したい。まあ、最後の晩餐ってところだ。
駅前まで足を運ぶと、トリコロールの飾られた店が目についた。スマホで検索してみる。欧州帰りのシェフが腕を振るう本格フレンチ。評価点も高く、口コミは絶賛の荒しだ。高級料理で腹を満たすのも悪くない。
ドアを開けると、店員が目を丸くして駆け寄ってきた。スウェットにサンダル姿の俺を舐め回すように見ている。
「ご予約のお客様でしょうか?」
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