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店内に踏み込むと、カラオケボックスほどの狭い空間に、若い男が文机で頬杖をついてうたた寝していた。
「探しものがある、急いでるんだ」
戸を開けるや否や発した俺の声に、驚いて目を覚ました店主は、慌てて居住まいを正した。
「当店ではお探しものの大小にかかわらず、一件五千円で承っております。本日はどのようなものをお探しですか」
黒い和装に身を包んだ店主は、おもむろに紙を差し出してきた。どうやら名前と住所を記入しなければならないらしい。
「寺町の喫茶ハレルヤで使われていたレシピノートだ。そこにはナポリタンのレシピが書かれているはずだ」
慌てて、しかも筆ペンというなれない筆記用具で書いた俺の文字は、ひどく乱れていた。俺は紙と一緒に、五千円札を机に叩きつける。
「柳川さま、ありがとうございます。では、そのレシピノートの手がかりとなるものはありませんか。写真ですとか、詳細なスケッチでもかまいません」
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