#最後のナポリタン

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 冷蔵庫……ではなく冷凍室を開ける。タッパーやフリーザーバッグが整然と並んだ室内に、ノートらしきものは見当たらない。だが、その壁面には分厚い霜がついていた。手近にあった缶切りを掴んで、霜を削る。するとビニール袋の端が現れた。ガリガリと削って、ビニール袋の中に入っていたB5判のノートを取り出すことに成功した。 「母さんったら、なんでそんなところにしまってたのかしら」  ノートは、そこに隠されていたというよりも、置き忘れられたようだった。  完全に凍り付いたノートを袋から取り出し、手で温めながら破かないように慎重にめくる。そして、ようやく見つけ出したのだ、ナポリタンのレシピを。 「じゃあ、今から作るわね。えぇっと、玉ねぎ四分の一個をスライスして――」 「俺にやらせてくれないか」  不思議そうに小首をかしげるママさんの手から、包丁をそっと奪う。玉ねぎの尻を落とし、皮をむき、スライスする。ああ、包丁を握ったのは、何年ぶりだろう。でも、体に染みついた動作に、戸惑いなどなかった。
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