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ひと晩寝かせる。俺は動きを止めた。今日、このナポリタンは食えないのか。俺は最後の晩餐を味わえずに、この世を去るのか。
ママさんが目尻に深いシワを刻んで、微笑みながら言った。
「また明日来てよ、待ってるから」
そんな何気ないひと言が、俺の体を柔らかく包み込んだ。それは、今までに感じたことがないほど、暖かく、優しく、慈しみにあふれていた。
俺はまだ生きててもいいのか。
こんな俺でも、生きていることが許されるのか。
こんな俺でも、人生をやり直すことが許されるのか。
「俊くん、どうしたのよ」
ママさんにハンカチを差し出されて、気づいた。俺は泣いていた。ガキみたいに、大量の涙を流していた。「湯気が目に染みて」などと言い訳をして、涙を拭う。
俺はパスタを入れた袋をしっかりと縛って、冷蔵庫に入れる。ドアをバタンと閉めて、ママさんに頭を下げた。
「ママさん……俺にこの店、手伝わせてもらえないかな」
〈 了 〉
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