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「予約なんてしてない。この店の一番高いコースを頼む」
ポケットから札を取り出してみせた。店員は「少々お待ちください」と言って店の奥へと消えていく。待ってなんかいられない。なにせ、俺には時間が無いんだ。空いてる席へ勝手に座る。
戻ってきた店員とちょっとした押し問答をして、「三万五千円の特別コースならば」と、しぶしぶながら了承させた。
「アミューズもオードブルもいらない。スペシャリテだけ出してくれ。あと、ビールをくれ」
残念ながらビールは無かったので、スパークリングワインをがぶ飲みしながら料理を待つ。ギャルソンが運んできたのは、和牛フィレ肉のパイ包み焼きソースペリグー。エディブルフラワーが山のように添えられている。
俺はぞんざいにフォークを突き刺し、ナイフで大きめに切り分け、口の中へ放り込んだ。サクりとしたパイ生地と柔らかなフィレ肉を噛みしだく。ひと口で十分だった。これは見せかけだけの、偽フレンチだ。ナイフとフォークをテーブルに投げ出す。
「おい、シェフを呼べ」
やたらと長いコック帽を被った、三十代前半の男がヘラヘラと笑いながら現れた。目鼻立ちの整った、色男。
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