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コンビニのフライドチキンって、何でこんなに美味いんだろう。奥ゆかしさとは無縁の、味覚へダイレクトに響く刺激。俺はコンビニの駐車場に座って、買ったばかりのフライドチキンを貪りながら、缶ビールで胃袋に流し込んだ。偽フレンチの口直しに。
「ああ、美味い。でも、これが最後の晩餐ってのも、味気ないな。俺は、何を食えば満足できるんだ」
指についたチキンの油を舐めながら、俺は自分の人生を振り返ってみた。俺、柳川俊の三十八年間を――。
――どこにでもいる、ちょっと生意気なガキだった俺は、高校卒業後、料理人に憧れて調理師専門学校へと進学する。二年の学生生活を経て、フレンチレストランへと就職が決まって上京。だが、料理を学ぶつもりが、くだらない人間関係ばかりを押し付けられて嫌気がさした。
心機一転、仏和辞典だけ握りしめて、あてもなく渡仏。単身で武者修行……と言えば聞こえはいいが、実質はただのビストロ巡り。半年も経たずに貯金が底をつき、バイトがてら飛び込んだオーベルジュ(宿泊施設併設レストラン)で皿洗いを始めた。
金も語学力も調理技術も無かった俺にできることは、一心不乱に働くことだけだった。いつしか、食材の下ごしらえを任され、冷菜に食材管理、さらには魚料理を任され、五年後にはスーシェフ(副料理長)になっていた。ありがたいことに、ミシュランガイドで星までついた。
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