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日本に帰国したのは、出資者のあてができたからだ。二十席程度のこぢんまりした店ながら、赤坂に念願のフレンチ店をオープンすることができた。星付きスーシェフという肩書が客を呼び込み、半年先まで予約が埋まった。
俺は有頂天だった。使いきれないほどの金が入り、人脈が増え、たくさんの女が寄ってきた。忙しさにかまけて、調理はスタッフ任せ。夜な夜な高級クラブにいりびたり、ナンバーワンホステスと高層マンションで半同棲。高級車でドライブし、ブランド品を買い漁る日々。
だが、そんな生活は、一瞬にして崩れ去ってしまった。
付き合っていたホステスが、覚せい剤使用の罪で捕まった。俺の部屋に置いてあった化粧ポーチからも、白い粉が見つかった。俺も疑われ、聴取やら尿検査やらで三日間も拘留された。伸び放題のひげ面で店に顔を出すと、予約キャンセルの電話が鳴り続けていた。
店は半年ももたず、閉店。俺はすべてを手放したうえに、かなりの額の借金を抱えて、夜の街に投げ出された。築いたはずの人脈は何の役にもたたず、電話がつながるのは怪しい連中ばかり。背に腹は変えられない。借金返済のため、怪しい仕事に手を出さざるをえなかった。
どうにかこうにか借金返済のめどがたった頃、特殊詐欺の容疑で逮捕された。実刑をくらい、二年間の刑務所暮らし。
塀から出てきた俺は、本当にすべてを失っていた。
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