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「わたしももう歳だし、この店をひとりで続けるのも大変で。そろそろ店を畳もうかと思って――」
「住まいの方には、無いのかな」
ママさんの話をさえぎって、無茶を承知で厨房の裏口から続く住居スペースにもあがらせてもらう。本棚や押し入れや仏壇も確認したが、見つかりはしなかった。いったい、どこにあるんだ。俺には今日しか時間がない。見つからなければ見つからないほど、どうしてもあのナポリタンを食べなければ気が済まなくなってしまった。
「ママさん、ちょっと待っててくれないか。閉店時間までには、戻ってくるから」
俺は店を走り出た。
※ ※ ※ ※ ※
俺には思い当たる場所があった。先月、競馬で大勝ちした金でそこそこ高級なクラブで飲んだのだ。そのとき席についてくれた、やけに色っぽいホステスが教えてくれた。「何でも探し出してくれる不思議な店があるのよ」と。
駅前でタクシーを捕まえて、目的の場所へと向かう。寂れた商店街、人通りの少ないアーケード。裏路地にある古い引き戸に、目印となる看板代わりの小さな紙切れ。そこには『失セモノ出ル』と書かれていた。
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