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「そ、そうなのね。好きなところは?」
「パッと咲いて散るところさ」
「散るところが好きなの?」
隆俊は私の方を見て頷いた。
「うん。君に告白したのは一年くらい前、桜が満開で、でも散り始めた頃だったよね。あの時、僕は桜の散るところが好きになったのさ」
隆俊は私の手を握り、私たちは歩き出した。
「あの時舞い散る桜の花の光景ときたら、僕に告白する勇気を与えてくれたんだよね」
隆俊は言った。
「祝福された歓声。拍手に包まれているような気分だったなあ」
それは舞い散る桜ではなかった。舞い踊り、舞い降りたのだ、隆俊の体に、心に――。
「そうか。じゃあ、私は桜が嫌いになった」
「え? どうして?」
「だって、あなたが私に告白する時、あなたの心に一番寄り添ってたのは桜じゃないの。嫉妬した。ふん、だ」
「あ? いや、別にそんな、あの時、君以外の何かに気を取られながら告白したわけじゃあ……」
「そういうことにしといてあげる」
何となく、私の頭に浮かんだ言葉。
桜よ。彼に勇気をくれてありがとう。
桜よ。でも嫌いと言ってゴメンね。
許して。嫌よ嫌よも好きのうち――と言うじゃないの。
(何かそれ違う)
と言わんばかりに、目の前の桜並木に桜の花が舞い散った。
<終わり>
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