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コロナ禍の車内
プシューと開いたドアをくぐると「いつもの席」と叫んだ優が、運転席側の二人掛けシートを陣取る。対面のシートにマダムが腰を下ろした。
「感染症対策のため~、マスク着用や会話は控えめにするよう~、ご協力お願いいたしま~す」
車内アナウンスに、愛美の心臓はぎゅっと縮こまる。優はマスクをしていないからだ。
(子供は例外で~す、とか言ってくれないかな)
「あっ、運転手さん!」
(ああ、もう~)
ぴょんっと、座席から飛び降りた優が、運転席と客席を隔てるガラス窓に顔をくっつけ手を振り始めた。
「優ちゃん、ちゃんと座って」
急いで愛美は他の乗客へ(注意してますよー)のアピールを行う。
「おーい」
「しっ! 優、ちゃんと座りなさい」
立ち上がり優を引き剥がそうとする愛美を、乗客たちがチラチラ見ているのが気配でわかる。
「騒がしくてすみません」
振り返って頭を下げたら、皆ふいと愛美から目を逸らした。
(ああ、もう!)
子供なんだし、大目に見てくれたっていいじゃない、と、爆発しそうな愛美に「大丈夫よ」と、声を掛けてきたのは向かいの席で文庫本を読んでいたマダムだった。
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