0人が本棚に入れています
本棚に追加
のどかな電車
リンリン。
発車ベルが鳴って、優に手を振り返さなかった真面目そうな運転手が、指先確認を行い、ゆっくりと電車は走り出す。
「どちらまで?」
にっこりマダムに尋ねられ、一瞬自分がどこに向かおうとしていたのかわからなくなる。が、すぐに「谷間地駅です」と愛美は答えた。
「キッズダンスのレッスンがあって」
「あら、すごいわね~」
愛美はいえいえ~と首を振る。
マダムは運転席の方に目を向けて「ゆうちゃん、電車好きでダンスもしていて、活発な女の子ね」と、目を細めた。
「あ、えっと……優は男の子なんです」
「あら、私ったらごめんなさい。とっても可愛いお顔だから」
愛美はまた、いえいえ~と、笑顔で首を振る。
「よく間違われます。服装も名前もユニセックスだから。優がいつでも自由に性別を選べるようにしたくって」
「今風の素敵な考えね」
(なんか、いい人そう。話しやすいし)
ゴトトンと、揺れる電車の中で愛美の心も弾む。こんな風に電車で誰かと話すのは久しぶりだ。つい、自分のことを話したくなる。
最初のコメントを投稿しよう!