のどかな電車

1/1
前へ
/23ページ
次へ

のどかな電車

 リンリン。  発車ベルが鳴って、優に手を振り返さなかった真面目そうな運転手が、指先確認を行い、ゆっくりと電車は走り出す。 「どちらまで?」  にっこりマダムに尋ねられ、一瞬自分がどこに向かおうとしていたのかわからなくなる。が、すぐに「谷間地駅です」と愛美は答えた。 「キッズダンスのレッスンがあって」 「あら、すごいわね~」  愛美はいえいえ~と首を振る。  マダムは運転席の方に目を向けて「ゆうちゃん、電車好きでダンスもしていて、活発な女の子ね」と、目を細めた。 「あ、えっと……優は男の子なんです」 「あら、私ったらごめんなさい。とっても可愛いお顔だから」  愛美はまた、いえいえ~と、笑顔で首を振る。 「よく間違われます。服装も名前もユニセックスだから。優がいつでも自由に性別を選べるようにしたくって」 「今風の素敵な考えね」 (なんか、いい人そう。話しやすいし)  ゴトトンと、揺れる電車の中で愛美の心も弾む。こんな風に電車で誰かと話すのは久しぶりだ。つい、自分のことを話したくなる。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加