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気持ちの良い風
「私、ワンオペ育児中で……優が生まれてすぐ旦那の海外赴任が決まったんですけど、私バカだし、18歳でデキ婚したから義実家とも実家とも仲悪いんです。だからここで優と暮らそうって決めて」
「そうだったのね……。私もワンオペ育児だったのよ。とても辛かったけどその分息子が愛おしくてたまらなかったわ」
「わかります! 優は私の全てで、この子がいなくなったら生きていけないかも」
愛美は嬉しくなって、コクコク頷いた。
ガタタン、ゴトトン、と、のどかな景色の中を電車はゆったり走行する。
車内換気のために開け放たれた窓から、桜山の初夏めいた風が吹き込んでくる。
(いい風)
コロナ禍で乗客の視線が冷たくなっても、優を電車に乗せてやりたいと思うのは、この自然風と一緒に走行する電車が気持ちいいからだ。
それまでの、エアコンで快適に管理された電車も過ごしやすかったけれど、やや寒かったり暑かったり、開いた窓から季節をダイレクトに感じられる電車は、小旅行に出かけているような気分にさせてくれる。
優にもこの気持ち良さを体験させてやりたい、と、つい考えてしまうのだ。
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