気持ちの良い風

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 ガタタタン、ゴトトトーン。  優は微動だにせず、運転席とフロントガラスの景色を熱心に眺めていた。 「どうかした?」  愛美は苦笑する。 「優がこんなに大人しいの久しぶりで。いつもはホント落ち着きないのに」  最近の優は、何故か電車やホームで静かにできなくなった。電車の中でも歩き回ったり声を上げたりするから、愛美は何度も乗客に謝らなければならない。それなのに今は、存在を消すみたいに静かだ。  まるで以前の優に戻ったみたい。 「きっと、ママを助けようとしているのよ」  マダムは運転席を見やる。 「私の息子も、電車に乗る度に、はしゃいで大変だった」  遠い昔に思いを馳せる目をした後で、マダムは愛美に目で微笑む。 「電車って、孤独な母親を慰めてくれるところよね」 「慰めてくれる、ですか?」
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