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菜の花駅に到着した電車は、新たな客を乗せ、蝉鳴駅へ向かって走り出す。
緑の街路樹と新興住宅が車窓を流れていく。埃っぽいアスファルトの匂いが鼻孔をくすぐり、カンカンカンカンと、赤く点滅する踏切を電車は通り抜ける。
程なくして、前方からやってきた子燕行きの電車とすれ違った。
互いの走行音が重なってガタタタンとタタタンと壮大な二重奏が鳴り響く。
『蝉鳴辺りですれ違うんで、見といて下さい』
ふと、中年男性の声が愛美の脳裏を掠めた。
あれはいつだったろう。とにかく、帰宅ラッシュの時間帯だった。
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