青春の入り口で

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「え?俺、歌本なんて借りたっけ?あ~覚えてねえし、もう持ってないな。」  真奈美の先輩へのドキドキはプンプンに変わり、案外短気な真奈美は 「もういいです。」  と、短く怒鳴ってチャラい先輩の教室を後にした。  二度と会えなくなったあの懐かしい歌本を心に思い浮かべながら。    もしかしたら、真奈美の初恋はあの歌本だったのかもしれない。  青春の入り口で既に躓いた真奈美だった。  ギターに青春を感じていた真奈美だったが、ピアノはもちろん本命で一生続けたいと思っていた。上手くすれば音楽の教員免許を取って、一生を音楽と共に歩いて行けると思っていた。  そして、真奈美には青春と言われる時代より前からの友人がいた。  本である。はじめは幼稚園の頃。レコードが読み聞かせをしてくれるのに合わせて、ページをめくっていくディズニーの絵本。  そして、徐々に親が買ってくれてあった、日本の名作全集。世界の名作全集。父親が趣味で全巻揃えてある沢山の漫画本。  いろいろと厳しい親だったが、本を読むことは一切止められていなかった。漫画本もだ。その頃の小学生はあまり読ませてもらえなかったと言うのを真奈美は大人になってから聞いて驚いたものだ。  これから始まる辛い辛い青春の中で、この音楽と読書だけが真奈美の心を支えてくれるものになった。  
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