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遡ること200余年。 廻島(かいとう)真中(まなか)臨魂山(りんこんざん)。 その(りょく)峰の竹藪(たけやぶ)に。 緑蛇(りょくじゃ)と呼ばれる聖獣が、住んでいた。 緑蛇は竹藪の(もり)であった。 ある時、一人の人間の女が。 夫から逃れて、緑蛇の竹藪に逃げ込んだ。 小さな赤子を抱えたその女。 顔の痣が、痛々しかった。 緑蛇は不憫(ふびん)に思った。 追って来た夫の前に、緑蛇はぬっと現れた。 その丈、55尺。 頭は人間のそれよりも大きい。 巨大な蛇の出現に、夫は(おび)えて逃げた。 女は緑蛇に感謝しながらも、怯えた。 緑蛇はそれを悟り、静かに姿を消そうとした。 しかしその時、女の抱いていた赤子が泣く。 酷い熱であった。 女はほとほと疲れ果て、緑蛇に助けを請うた。 赤子の小さな光を、緑蛇はじっと見つめた。 赤子は泣き止み、緑蛇の方へと手を伸ばす。 緑蛇はそっと口を開いた。 そして、その小さな手に軽く牙を立てた。 赤子の熱は瞬く間に引いた。 女は喜び、竹藪の中で暮らし始めた。 小さな小屋で、独り。 女は赤子を育てた。 緑蛇は二人を守り続けた。 小屋はいつしか立派な建物になった。 緑蛇(りょくじゃ)寺。 女の修道者たちの拠り所となった。 緑蛇は薬草の知識を、修道者に教えた。 修道者たちはよく学んだ。 そして、病に苛まれる人々を助けた。 修道者たちの着物は、緑蛇と同じ深い緑色。 着物と同じ色の帽子を被り、髪を隠した。 修道着を見るや、人々は我先にと助けを請うた。
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