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「あは。見えません。」
「見なくてよし。」
「見せてください。」
「少しは遠慮しなさい。一応、俺は部長です。」
「じゃ、指の隙間からでいいので見せてください。」
部長がプハッと笑って、手を元の位置に戻した。
鉄仮面が崩れると、押井部長はただのイケメンで、しかも割と完璧なただのイケメンで、あの噂はとんだガセネタだなと考える。
「俺、結構、怖がられてるはずなんだけどな。」
押井部長が可笑しそうに笑いながら呟く。
「ただの完璧なイケメンでした。ガッカリです。」
「おや、それは申し訳ないことをした。」
「お詫びに、泣いてた理由聞かせてください。」
「やだよ。今度こそ小貝さんが俺に恋をしてしまう。」
「なんですか?それ。」
もう、映画館で映画鑑賞中とは思えないほど、普通に会話している私たちを咎める人はいない。期せずして貸し切っているこのシアターにいられるのは、この面白くない映画が終わるまでの、あと15分くらいだと思うと、なんだか少し名残惜しかった。
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