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結論を言うと、影が薄すぎるあまり「ワイルドだろぉ」を連発しても誰にも気づかれず、むしろ「ワイルドだろぉ」と言う幽霊として一躍時の人になった。
それからも欠かさず流行語大賞のニュースには目を通した。翌年の「倍返し」「今でしょ!」「じぇじぇじぇ」「お・も・て・な・し」も一年中連呼していたし、そのまた翌年の「ダメよ〜ダメダメ」も連呼した。「集団的自衛権」も流行語大賞を受賞していたので、ことあるごとに連呼していた。勿論、小学生のひよりに意味など分かるはずがない。
しかしどんなに流行語大賞を連呼しても、影の薄さのせいでまったくダメ。結局友達は一人もできず、出欠確認も先生に忘れられるほどの存在になってしまった。そのせいで当時のひよりの口癖は「ミジンコ以下でごめんなさい」である。ミジンコに失礼だ、謝りなさいと高校生になった今思う。
そしてふと一つのアイデアが舞い降りた。それは中学三年生になったばかりの頃。英語の授業で受動態を習った時である。初めて受動態と言う言葉を知り、ハッとした。いつまでも受け身になっていてはダメだ、と。キラキラ系人間になりたければ、能動的にならなければ! そして今に至る。
自分が流行語大賞を生み出せば、脚光を浴びること間違いなし。晴れて陰キャぼっちを脱出し、キラキラ系人間になれると信じていた。そして今はその為の準備中なのである。ネタは多ければ多いほどいい、と前に芸人が言っていたからだ。
「逆に『嬉しすぎる』の意として、ぱおんすぎて湖もいいな。ぴえん超えてぱおんって言うし。ぴえんでは悲しい意を持っていたのに、ぱおんになると元気になっちゃってる感あるしな、発音的に。これはバズるぞ……」
へっへっへ、と気味の悪い笑い方をしても誰にも気づかれないのである。だから外でも堂々と気持ち悪い笑い方ができる。これは影が薄すぎる人間のメリットなのかもしれない。
ひよりはノートに先程の「ぱおんすぎて湖」と記入しながら、信号のない横断歩道を渡った。
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