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「ですよね」
死神が立ち上がってスッと手を前に出す。そのスマートな動きにひよりは惚れ惚れした。思わず手を前に出しそうになる。
「どうかされましたか?」
「あの、黄泉の国に行ったらどうなるんですか?」
「来世に行かれます」
「某ドラマみたいに来世がオオアリクイとかウニとかになる可能性もありますか?」
「はい、必ず来世が人間であるという保証はございません」
「現世をやり直せたりは?」
「できません」
ですよねー、とひよりは項垂れた。やはりドラマで描かれていることはファンタジー。現世を何度もやり直せるなんてことはできないのか。やり直せなかったらドラマ続かないもんなー、とひよりは一視聴者として思った。
「あの、私は現世で思い残すことがあるんです。でも幽霊になったら思い残しを実現することも不可能なんです」
「そうですか、それは残念です」
「あの、死んだことをなかったことにしてもらえたりできませんか?」
「はい?」
「私を蘇らせたりとか、時間を操作したりとか!」
「できません」
「ですよねー!!」
もう一度項垂れた。やはりファンタジーと現実は違うのだ。
「ああ、来世は魔力が国で一番高くて、魔法学校で敵キャラと戦いながら青春を謳歌するような世界に行きたい。いや、イケメンか美女でもいい。この際チートしまくりのスライムでもいい。とにかくチートキャラに生まれ変わりたい。もうこんな陰キャぼっちは嫌だ。誰にも気づかれない体質は嫌だぁぁぁぁ!!」
「心の声だだ漏れですよ」
死神に言われて、ハッとなる。今までは心の声がだだ漏れでも誰にも気づかれなかったのに、今は死神がちゃんとひよりのことを見えているからだだ漏れの心の声を聞かれてしまうのだった。恥ずかしい。消えたい。段ボールに梱包されて、宇宙に投げ出してほしい。
「でも時間を5分だけ伸ばすことは可能ですよ」
「はい?」
突然の訳の分からない言葉にひよりはきょとんとする。
「僕の力で、八戸さんの寿命を5分間だけ伸ばすんです。それなら可能ですよ」
「え、つまりもう5分生きれるってことですか?」
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