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「では、まずは新入生諸君。自己紹介をしてくれたまえ」
大宮の進行により、新入部員達の自己紹介が始まった。今年は20人弱が入部し、例年並みの人数となっている。その中でも、一際目立っていた男子生徒がいた。
「永月夜一……です、ピアノを弾くのが、得意……です。よろしくお願いします……」
あまりに暗く、あまりに喋るのが下手。にも関わらず、他にも楽器が上手い人などいくらでもいそうな環境で「ピアノを弾くのが得意」と主張する度胸。部内の注目は、彼に一気に集まった。
続いて、2年生、3年生の自己紹介と続いたが、永月夜一という少年への注目は集まったまま。そんな中、大宮からの容赦のない宣言が彼を襲う。
「では、恒例のアレを行うとしよう。新入生諸君よ、ここで一人一人、演奏を見せてほしい」
新入部員達がざわつく。彼らに、不自然なほどに温かい上級生達の視線が向けられると、誰もがこれは洗礼だと理解した。
その重圧は、永月にとっては特に重かった。自己紹介で言ってしまったからには、下手なことはできない。自分の番が回ってくるまで、他の生徒達の演奏など全く聴こえなかった。
だが、鍵盤の前に座ると、急に安心感が生まれた。
「やっぱり……君だけが、友達だ」
周りに聞こえないように呟いたつもりだった。だが、辺りは静まり返り、その場の誰もが聞いていた。彼の奏でる旋律は、とても悲しげなものに聴こえたことだろう。
しかし、それ以上に。
圧巻だった。永月は理解していなかったが、新入部員達の中では、技術も表現もずば抜けていた。この超大型新人を、室内楽部一同は歓迎した。
感嘆、称賛。そんな感情、表情で部屋が埋め尽くされたようだったが、一人だけ、大宮だけが、驚きを見せていた。
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