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ゲームセンターの再会
つつがなく歓迎会は進行していったが、永月の精神は、どうも疲れていた。体は動くけれども、心が動かない。こういう時にこそ、彼は行くところがあった。
ゲームセンターだ。永月夜一という少年はゲーム、その中でもとりわけアーケードの音楽ゲームが幼少の頃から大好きだった。そのおかげもあってか、かなりの腕前であり、それがスコアという数値で表れるのは、彼の自己肯定感の支えだった。
今日もまた、筐体に向かおうと歩いていく。すると、先客がいた。金髪にも近い色の長い茶髪を持つ、背の高い少女。彼女のことを、永月は知っている。僅かに数時間前に自己紹介をしていたのを知っている。
「部長……さん……?」
思わず固まって見てしまう。それはそれはとてつもない腕前だった。だが、腕前よりも、まさかこんなところに現れるような人だとは一切想像ができなかった。
高嶺の花。お嬢様。生きる世界、格が違う。そんなイメージとはかけ離れた、ゲームと真剣に向き合う大宮日姫の姿がそこにあった。
「観客の気配がするから見てみれば、そうか、君だったか。驚いたかな? 急に住む世界が近くなったような気がしただろう」
「いや、そんな……えっ、ちょっと……」
「いいんだ、無理に会話をしようとしなくても。君は、音楽で語ってくれたまえよ」
そんなことを言われても、と永月は全身でアピールした。住む世界が近くなったような気がしたと言っても、だからといって話せるとは限らない。
故に、大宮はもう一歩だけ歩み寄ることにした。
「皆の前でやった曲、『ゼーレンヴァンデルング』だろう? 私もかなり好きな曲の一つでね、ゲームでも楽器でも、それはそれは練習したものだよ」
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