8人が本棚に入れています
本棚に追加
ちょっと食いついてくれればいいな、という程度の気持ちでいたのだが、ある意味その予想は裏切られた。
「部長さんもなんですか? かっこいい曲ですよね、もう初めて聴いたときにビビッと来て、お小遣いをとにかく解禁につぎ込んで……あっ」
「君は……ふむ……」
急に饒舌になった永月に呆気にとられたか、大宮は顔に出そうになったのを考え込むフリをして誤魔化した。だが、それが内気な少年を不安にさせる。
いや、何をしても、彼は不安そうにするだろうか。
「あっ、ごめんなさい……勝手に、盛り上がっちゃって……」
「君、よい思い入れを持っているな。それに、私が初めて名乗った時に、あのようにコソコソと話していたのが永月君であれば……期待していいやも……よし。永月君、少し、聞いてくれるか」
「ハイッ!」
必要以上に背筋を伸ばして、まるで兵士が上官の話を聞くような態度。もはや何も言うまい、きっとそのままにした方がむしろ互いに楽だと割り切り、本題に入る。
「単刀直入に言おう。私と、デュエットをやらないか?」
「……とは?」
「夏に、わが部でやる演奏会。そこでの発表のために、私とピアノデュエットを組んでほしいのだよ。君となら、やりたいことをできる。君の内の熱意にも、応えてみせよう。どうかな?」
すぐに良い返事が来るつもりで聞いたわけではない。しかし、予想外なほどに、永月の心には響いた。
彼は、欲していた。彼女のような人物を。
「……部長さんが良ければ、お願いします。僕なんかが、役に立てるなら」
「……よろしい。では、これからよろしく。なら、せっかくだ。ワンクレジットやって、親睦を深めようじゃないか」
結局、その後はワンクレジットどころか、1時間ほど、スコア対決をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!