8人が本棚に入れています
本棚に追加
「む、それもそうか。なれば、仕方ないか……とはいえ、例年より需要があるのは間違いない。夕凪先生とも、協議はしておく。代替案もいただこうか」
「相変わらず、勢いで動くけど物分りはいいんだ。私の方からも、伝えとくからね。それにしても……大宮さんが、ねぇ」
「また今度は何なんだ?」
同じような言い方でも、先程のからかうような態度ではなく、感慨深そうにしている。大宮は、またからかわれるのかと思っていたようだが。
だがそのようなことはなく、純粋な驚きが高階の中にはあった。
「ほら、誰かと組んで演奏するなんてこと、大宮さんは今まで無かったでしょ? そんな話を、なんか聞いたんだけど」
「……そう、だな。確かに、私がやってきたのはソロばかり、合奏は……部全体でやるものくらいか。どうも、皆とは距離がある、そんな感じがするよ」
アンサンブルやバンドを扱う部の部長という立場でありながら、ソロしかやったことのない大宮。もちろん、ソロというのも演目としては意味はあるし、注目も集まる。
しかしながら、彼女の中には違和感があった。どこか、自分は持ち上げられているのではないか。あるいは、情けをかけられているのか。
「本当に、何があったわけ?」
「別に、どうということはない。恐れ知らずな逸材がいたのだよ。彼は化けるな、将来が楽しみだよ」
その後、協議の結果、土曜日に音楽室が使えることに決まった。それ以外の日には、体育館のステージに設置されているアップライトピアノなどで個人練習を行う。
月夜と日の姫、二人の歩みの始まりだ。
最初のコメントを投稿しよう!