「あの」大宮さんが

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「む、それもそうか。なれば、仕方ないか……とはいえ、例年より需要があるのは間違いない。夕凪(ゆうなぎ)先生とも、協議はしておく。代替案もいただこうか」 「相変わらず、勢いで動くけど物分りはいいんだ。私の方からも、伝えとくからね。それにしても……大宮さんが、ねぇ」 「また今度は何なんだ?」  同じような言い方でも、先程のからかうような態度ではなく、感慨深そうにしている。大宮は、またからかわれるのかと思っていたようだが。  だがそのようなことはなく、純粋な驚きが高階の中にはあった。 「ほら、誰かと組んで演奏するなんてこと、大宮さんは今まで無かったでしょ? そんな話を、なんか聞いたんだけど」 「……そう、だな。確かに、私がやってきたのはソロばかり、合奏は……部全体でやるものくらいか。どうも、皆とは距離がある、そんな感じがするよ」  アンサンブルやバンドを扱う部の部長という立場でありながら、ソロしかやったことのない大宮。もちろん、ソロというのも演目としては意味はあるし、注目も集まる。  しかしながら、彼女の中には違和感があった。どこか、自分は持ち上げられているのではないか。あるいは、情けをかけられているのか。 「本当に、何があったわけ?」 「別に、どうということはない。恐れ知らずな逸材がいたのだよ。彼は化けるな、将来が楽しみだよ」  その後、協議の結果、土曜日に音楽室が使えることに決まった。それ以外の日には、体育館のステージに設置されているアップライトピアノなどで個人練習を行う。  月夜と日の姫、二人の歩みの始まりだ。
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