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「それは、なんだか……恐縮です」
「……」
「……」
会話が全く進まない。どういう反応をしたものかと、互いに迷いに迷っている。
「えっとー……永月くん」
「……はい」
「君には、大宮さんのことがどう見えてるのかな?」
永月は数秒固まる。あまりにもストレートすぎるのだ。先生がどうしてそんなことを聞くのだろう。まずはそこから聞いてみようかと思った。
が、聞けなかった。ただただ、弱気だった。だから、質問にそのまま答えただけだった。
「とっても……楽しい人で、話が合うし……意外と、趣味が近かった……です」
「へぇ、そうなんだ……そう思うなら、それを大事にしてほしいな。きっとあの子も、そうあってほしいと思ってるから」
「そう……ですか?」
「うん。あの子のこと、皆そんなに近いところにいるって思えてないの」
プロ野球のスター選手の子。つまるところは、お嬢様と言ってもいい育ちだということは彼も知っていた。この学校の中ではかなり異質で、距離感があると皆が感じていることだろう。
しかし、永月には関係がなかった。そういったことに興味はなく、ほとんどの人と距離をおいてきた彼にとっては、彼女は十分近いところにいた。
「あの、先生は、その……どう、なんですか?」
「できるだけ、本人の思いを理解してあげたいって思ったし、話し相手にもなってあげたよ。けれどね、やっぱり私は何もできないみたい。そういう点だと、君は何かしてあげられるのかもね」
「……」
「君の目には熱いものがある。私には分かるよ。だから、それを見せてあげて」
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