ある日の夕方、月の出に

2/2
前へ
/21ページ
次へ
「それは、なんだか……恐縮です」 「……」 「……」  会話が全く進まない。どういう反応をしたものかと、互いに迷いに迷っている。 「えっとー……永月くん」 「……はい」 「君には、大宮さんのことがどう見えてるのかな?」  永月は数秒固まる。あまりにもストレートすぎるのだ。先生がどうしてそんなことを聞くのだろう。まずはそこから聞いてみようかと思った。  が、聞けなかった。ただただ、弱気だった。だから、質問にそのまま答えただけだった。 「とっても……楽しい人で、話が合うし……意外と、趣味が近かった……です」 「へぇ、そうなんだ……そう思うなら、それを大事にしてほしいな。きっとあの子も、そうあってほしいと思ってるから」 「そう……ですか?」 「うん。あの子のこと、皆そんなに近いところにいるって思えてないの」  プロ野球のスター選手の子。つまるところは、お嬢様と言ってもいい育ちだということは彼も知っていた。この学校の中ではかなり異質で、距離感があると皆が感じていることだろう。  しかし、永月には関係がなかった。そういったことに興味はなく、ほとんどの人と距離をおいてきた彼にとっては、彼女は十分近いところにいた。 「あの、先生は、その……どう、なんですか?」 「できるだけ、本人の思いを理解してあげたいって思ったし、話し相手にもなってあげたよ。けれどね、やっぱり私は何もできないみたい。そういう点だと、君は何かしてあげられるのかもね」 「……」 「君の目には熱いものがある。私には分かるよ。だから、それを見せてあげて」
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加