1・10年前、出会いの夜

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「おまえたちは黙ってろ」  父は苦虫を噛み潰したような顔で、そのウエイターに文句を言い始めた。 「こういうときは、わかっていても融通を利かすものだぞ。まったく客あしらいのまずい店だ。評判倒れもいいところだ」  けれど、そんな父の嫌味にはこれっぽっちも動じずに、そのウエイターは「申し訳ありません。規則ですので」と言うと、深々と一礼をした。  そして、去り際にわたしのほうをちらっと見て、ウインクした。  ひょえ、やっぱ津村先生ってこと?  えー、でも学校にいるときとまったくの別人なんだけど!  いつもは真面目を絵に描いたような人なのに。  高校の先生って、若ければそこまでイケメンじゃなくても生徒にモテるのに、津村先生はまるで人気がない。  アイドルに似ていると評判の数学教師(わたしには他人の空似としか思えないけど)に、人気をぜんぶ持っていかれている。  そんな人が、今はなんでこれほどのイケメンオーラを放っているんだろう⁉︎
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