5・会いたくて

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 竹取物語って……たしか、昔ばなしのかぐや姫のことだよね。 「先生、さすがにわたしでもかぐや姫は知ってますけど。それに中学で暗記したし。『いまは昔、竹取の翁ありけり……』ですよね」 「ああ。みんなそれで読んだ気になっちゃうんだよな。でも、この話はそれだけじゃないから騙されたと思って読んでごらん。これは注釈が詳しいから読み通せると思う」 「はい」  わたしは素直に返事をして、先生からその本を受け取った。 「先生」 「ん?」 「また、わからないことがあったら、メールで質問してもいい……ですか?」  わたしは先生の表情を探ろうと見上げた。 でも逆光で良く見えない。  先生はすぐ、いつもと変わらない調子で答えてくれた。 「ああ、いいよ。すぐに返事できないかもしれないけど」  そう言って、わたしの頭に手を伸ばしかけたけれど、すぐに引っ込めた。  そして、少しばつが悪そうに小声でつぶやいた。
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