1・10年前、出会いの夜

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 今日はバッチリメイクしてるし。  いつもは後ろで結んでいるだけの髪もアップにして、後毛をいい感じに巻いてるし、わたし的には一番大人っぽいベージュのツーピースだし、パッと見、未成年に見えないと思うんだけど。  それに、なんだかこの声、聞いたことがあるような気が……  ウエイターの顔を見て、あやうく「わっ」と叫びそうになった。  この人、古文の津村先生に似てる。  声もそっくり。  ただ、雰囲気はまるで違う。  眼鏡かけてないし。  別人だよね。  高校の国語教師がこんなところでウエイターの仕事してるわけ……ないよね。   「つべこべ言わず、早く持ってきてくれないか」  田坂さんが居丈高に言い放つ。    他の席の人がその声に驚いてこっちを見ている。  もう、恥ずかしいなぁ。  わたしは慌てて取りなした。 「パパ、田坂さん。わたし、別にワインなんて飲みたくないから」 「大きな声を出したら、他のお客さんの迷惑になりますから」と母も遠慮がちに言った。
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