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プロローグ
「融、3周年おめでとう」
「ありがとう、小春」
シャンパングラスを合わせ、どちらともなく目を見交わし、微笑み合う。
今日は夫、津村融がオーナーをしているフランス料理店『サージ・ミニョン』が開店して3年を迎えた日。
帰宅して、リビングで改めて乾杯したところだ。
店では、常連のお客さんや知人を集めて、お祝いの会を開いた。
開店当初からひいきにしてくださる方ばかりで、とても和やかな時間を過ごすことができた。
ただその分、思い出話は尽きることを知らず、午前1時をまわり、ようやくお開きとなった。
「あー、美味いな、さすがクリュッグ」
融はソファーに身を預け、美しいエメラルドグリーンの瓶を手に取り、しみじみと眺めている。
「店が開店した時、買ったんだよ。無事、3周年を迎えられたら、開けようと思ってさ」
「ほんと、美味しい。それに融は、みんなが飲んでるのを眺めてるだけだったしね」
空になったグラスに2杯目を注ぎながら、わたしは言った。
「そりゃゲストをさしおいて飲むわけにはいかないからな」
融はグラスをテーブルに置くと、あっと小さく声をあげた。
「そうそう。小春プロデュースの食器、大好評だよ。この間も、取材に来た編集者が感激していた」
「こちらこそ、毎度ありがとうございます」
わたしがふざけて深々と頭を下げると、彼は声を立てて笑っている。
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