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ショローン達はヘイビィの前に立ち、問いかける。
「マスター。これでボク達シズムツキの舞台は幕引き?」
「こんなスッキリしない終わり方、らしくないよー?」
「・・・団長、これで良いのか?」
ヘイビィは三人が思いもよらぬ事を言ってきたので、困惑していた。
「な、なんだ?あなた達・・・何が言いたい!?」
「マスター・・・これで終わりは、なんかダサい」
「主演は決まってるんでしょー?あいつらがイーサ倒したら、月音達は脇役じゃないのー?」
「魔王の骸も、手に入らない」
ヘイビィは、レナの言葉を聞き思い出したように大声をあげた。
「そうだった!魔王の骸を横取りするのが、真の狙いだったのを忘れていた!そうだ、そうだ・・・ショウコ達はバカだから、イーサのサークレットを破壊したら終わりだとばかり思ってるだろうが、そうはならん!こうしてはおれん、行ってくる!あなた達は、ここで待機していろ!」
ヘイビィは魔法で空間に穴を開け、飛び込んだ。
穴が閉じた後、残った三人は顔を見合わせる。
「マスター、絶対にオリジナル達と行きたかったやつだ」
「そうだねー!て言うか、さっきレナを人質にされた時に・・・仲間を奪われるのって辛いんだなーって、ちょっと思っちゃったんだよねー!」
月音の発言に、ショローンはハッ!と何かに気づいたような表情を見せる。
「まさか、オリジナルがレナを人質にとったのは・・・ボク達に感情移入させる為の巧妙な罠だったのか!?」
「・・・そういう事か。流石はショローンの元になっただけはある。してやられたな」
レナもショローンの言葉に頷いているのを見て、チッサは心の中で「絶対に違う」と勘違い三人組を生暖かい目で見守っていた。
「流石、姉御・・・敵の心理すら操作しているとは!このフロスティ、感服の極み!」
うわっ、何かフロスティさんまで勘違いしてる!?
チッサは助けを求めるように長野ナーガの方を見ると・・・ぬいぐるみ姿になったパイロヒュドラを抱っこして、お茶を飲んでいた。
「チッサさん・・・もう、これで良いんじゃないですか?ショウコは、何でもありなんですから」
何かを諦めたかのようにも、悟りを開いたかのようにも見える菩薩のような笑みを浮かべ、長野ナーガはチッサに言った。
「長野ナーガ・・・そうだね」
チッサも長野ナーガの隣に座り、四人が向かった城を眺める。
「ショウコ・・・死亡フラグなんか、へし折って必ず皆無事で帰ってきて下さいね」
その頃、城へ向かうショウコ達は・・・まだ歩いていた。
「なんか、城に近づいてなくないか?」
「うむ。私もそんな気がしていた」
「これ~ もしかしたら、無限ループのトラップに引っ掛かったかもだわ~ なんか、高ぶっちゃって勇み足みたいな~?」
「いや、こういう罠はオウルが気づかないと・・・そういうキャラだろ?」
「ちょっと、ショウコちゃん?あたしが悪いみたいに言わないでよ!」
「おいおい、私達は一蓮托生だ。喧嘩している暇があったら、罠を解除する方法を・・・」
ラカが仲裁に入ろうとした瞬間、空間に穴が開きヘイビィが姿を現した。
「あなた達、揃いも揃って何をしているのだ?」
冷ややかな目で三人を見るヘイビィに、ショウコ達は歓喜の声をあげる。
「ヘイビィ!?お前、来てくれたのか?」
「どういう風の吹きまわしか知らんが、助かった」
「あらあら~ パーティー再結成ね~」
ゆるゆるな雰囲気の三人を見て、ヘイビィは苦虫を噛み潰したような顔で舌打ちした。
「チッ!他に言うことは無いのか?敵をフルオープンで迎え入れるな!とにかく、ここから出るぞ。入れ」
ヘイビィのおかげでショウコ達は無限ループの罠から脱出することができた。
「オウル、罠を解除しておけ。帰り道でまた引っ掛かるとか最悪だからな」
「了解~」
ヘイビィに従い、オウルは無限ループの罠を魔法で解除する。
「どうせならイーサのところまで一気に移動したかったが、無理なのか?」
質問するラカをヘイビィは冷ややかな目で見て言った。
「無理に決まってるだろ・・・敵を甘く見るな。イーサの事だから、ジェノが城を出た時点で城内に亜空間移動を防止する結界は勿論、罠を大量に仕掛けているに違い無い。慎重に進むぞ」
「ところで、ヘイビィちゃんはどういう心境の変化で来てくれたの~?」
「魔王の骸だ。あれはエネルギーの塊だからな」
「相変わらず、レアアイテム好きだなぁ。また、ミミックに頭噛られるぞ?」
昔の事をショウコに掘り返され、ヘイビィは眉をしかめてそっぽを向く。
「いつの話をしている!?とにかく、魔王の骸は貰う。その為に、あなた達を利用させてもらうからな?」
三人は「はーい」と声を揃えて返事をした。
「チッ!相変わらず緊張感の無い連中だ。話しておきたい事がある・・・カラスを飛ばして罠を探りながら進むぞ」
ヘイビィは使い魔のカラスを出現させて城の中へと飛ばし、罠が仕掛けてられていないか確認する。
「懐かしいなぁ、ダンジョン探索の時はいつもカラスで確認してたよな」
「・・・扉に罠は無い。オウル、解錠魔法」
「了解~」
扉を開き、四人は城内へと入る。
「てか、ヘイビィ魔力は大丈夫なのか?」
「アイテムで多少は回復させてきた」
「多少かぁ。なら、これ飲みな」
ショウコはリョウコから貰ったアルテポーションをヘイビィに手渡す。
「光輝くポーション・・・まさか、ショウコが作った訳ではあるまいな?」
「母ちゃんが作ったスゲェポーションだ」
「なら、ひとまず安心だな」
嫌みを言いながら、ポーションを口にするとヘイビィの体力と魔力が完全に回復した。
「何だ、このポーションは!?」
「スゲェだろ?これで思う存分、戦えるな!」
「フン、貴重なアイテムだろうに・・・今まで敵だった相手に使うとは、どこまでも甘いな」
憎まれ口を叩くヘイビィにショウコは笑顔で答える。
「今は、頼れる仲間だから問題ないだろ」
「・・・さっき、話したいと言った内容を伝える。良く聞け。お前らはイーサのサークレットを破壊すれば、融合が解除され仲間を救いだして終わりだと思っているだろうが・・・イーサは確実に魔王の骸を使って『魔王化』する。つまり、第2ラウンドがある」
「魔王化・・・そんな事が可能なの~?」
「十中八九、それが可能な状態にしているハズだ。それを踏まえて戦う」
ヘイビィの言葉を三人は疑う事無く頷いた。
「戦うからには、勝つ。これが正真正銘、最後の・・・パーティーバトルだ」
ヘイビィはショウコ達に背を向けながら、愛用している先端に緑色の石がついたロッドを向ける。
オウルは年季の入った黒い木の杖を、ショウコとラカは剣をヘイビィのロッドに重ねた。
「久しぶりだな、これ」
「正念場の戦の前は、必ずやっていたな」
「これが最後って思うと、ちょっぴり寂しいけど~ じゃあ、せーの!」
四人は重ねていた武器を高く掲げ、勇ましく鬨の声をあげた。
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