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第3話 面倒見が良い系 商人
エマがショウコのアパートに押しかけてから、数日が経った。
「ただいま~」
「おかえり、エマ!パート決まったぞ!」
エマがバイトに行っている間にショウコは少し離れたスーパーで面接し、採用が決まった。
「本当!?なら、今日はお祝いね!何か食べたいモノある?」
リクエストが無いか尋ねると、何故かショウコは涙ながらに歌った。
「ラーメンを~FOR YOU♪」
「泣くほど嬉しいの?」
「違う!今のはチェッ○ーズの名曲にちなんだ崇高なギャグなんだよ!」
知らないし、そういうギャグの説明されるのってガチで冷める。
「また!無言で冷ややかな絶対零度の視線を向けるな!凍死するだろ!」
「それはこっちの台詞。つまらないギャグで凍死するところだったわ。じゃあ、ラーメン屋さんに行きましょう」
「いや、袋ラーメンとチャーシュー買ってきて食べるくらいで良いよ。都会のラーメン屋は高いからなぁ~私の地元じゃ大盛でも600円でバカ美味い煮干し系ラーメンが食えるってのに」
「家賃とかも違うからね~ じゃ、買いに行こう!」
近所のスーパーは潰れた(冷笑)ので、少し離れたスーパーで買い物をする事にした。
「煮卵も買っちゃおうか!」
「エマって、普段は節制するけど祝い事でパーっと使ってプラマイゼロにするタイプだな」
「良いじゃない、それで!今回は長く続くと良いわね~」
「あのなぁ、こないだも上の連中が悪人じゃなければ続いてたっつぅの!」
アパートに帰り、ちゃぶ台にラーメンを並べる。
声を揃えて「いただきます」をし、ショウコが豪快に麺をすする中、私はおしとやかに食べる。
インスタントラーメンを今まで美味しいと思った事は、正直言って一度も無かった。
けれど、今夜のラーメンは・・・美味しい。
そんな事を思っている最中、ショウコがすする際に飛ばしたスープの滴が頬についた。
「熱っ!?ちょっと、汁飛ばさないでよ!!」
「あぁん?ラーメンは、すすった方が汁が麺により絡むし、鼻から香りが抜けて美味いんだぞ!」
「すすっても良いから、飛ばさないで!」
「何それ、難易度高すぎだろ。ランバダ踊りながらフラフープしろって言ってるのと同じレベルの無理難題だぞ!」
「大丈夫、ショウコなら出来る!」
夕飯を終え、シャワーを浴び、ス魔ホいじったりしながら軽く話をしているうちに・・・気がついたら、寝る予定の時間が過ぎていたので慌てて布団を敷いた。
私は青ジャージから黄色のパジャマに着替え、ショウコは天馬流星と書かれたTシャツといつも履いてる黒いスウェットパンツで布団に入る。
「なんか、二人だと時間過ぎるの早く感じるな。明日から働くスーパー、ちょい遠いから早めに家出る。戸締まり宜しくな」
「わかったわ。初日から遅刻なんかして即刻クビにならないようにしなきゃね!」
「遅刻は仕事を舐めてるって言ってるようなモンだからな。何でも最初が肝心!じゃ、おやすみ~」
「うん。おやすみなさい」
床につき、1日が終わった。
翌日
「じゃ、行ってくる」
白Tシャツと緑のジャージパンツ姿で玄関に立ったショウコに声をかける。
「ショウコ、忘れ物無い?」
「大丈夫。エマは休みだっけ?」
「うん。掃除と洗濯しておくね!」
「お、サンキュー!でも、せっかくの休みだし、家事はほどほどに仕事の疲れを取るんだぞ?じゃ、また後で」
「いってらっしゃい!」
数時間後
「ただいま!」
元気良く笑顔で帰ってきたショウコを見て、私は心からホッとした。
正直、またクビになったと青ざめた顔で地獄の底から沸き上がるような唸り声をあげて帰ってくるんじゃないかと心配していたからだ。
「初出勤、どうだった?」
「うん、クビになった!」
ショウコは帰ってきた時と同じ笑顔で爽やかに答えた。
「はぁぁぁぁぁ!?あんた、何回初日にクビになれば気が済むのよ!」
「フッ、お前は今まで食ったパンの枚数を覚えているのか?」
「ぬぁにを偉そうに台詞めいた喋り方してるのよ!どうせ、それも漫画かゲームのパクりでしょ?言い訳するにしても、ちゃんと自分の言葉でしなさい!」
ニヒルな笑みを浮かべていた顔が一変し、ショウコは顔を両手で覆いながら地獄の底で呻く亡者のような声を出す。
「パクりって言うなぁ~ リスペクトだもん、引用しただけだもん、オマージュだもん、人間だもの~」
つい、興奮して辛辣な言葉を浴びせてしまった。もしかしたら、何か深い理由があるかも知れないのに・・・ちゃんと、ショウコの言い分も聞いてあげなきゃ。
「ごめん、言いすぎたわ。それで、何があったの?」
数時間前に遡る。
「いらっしゃいませ~ こんに、ちわわ」
犬の品種を言っているかのような挨拶をするショウコのレジにしかめっ面の無愛想な50代男性が手ぶらで現れた。
買い物カゴはおろか、商品も持っていない。
「おい、ヘブンスター」
「はい?何かの合言葉っすか?」
「タバコだよ!ちんたらしてねぇで、さっさと出せよ」
ピキッと額に血管を浮かべながらも、ショウコは笑顔で答える。
「さーせん、タバコはサービスカウンターでのみの販売となってますんで、そちらでお買い求め下さいま死」
ショウコの呪言に気づいたか気づいてないか、定かでは無かったが男は態度が気に入らないと食ってかかった。
「なんだぁ、その態度は!接客業にあるまじき言葉使いじゃねえか!」
ブチィッ!!
何かが切れる音が店内に響き渡り、近くにいたスタッフや客が「何事!?」と、どよめく中・・・ショウコの身体から赤黒い殺意のオーラが吹き出し、威圧感で男は床に尻餅をついた。
「てめぇみたいな態度悪い輩に態度について、とやかく言われる筋合いはねぇんだよ!!56すぞゴラァ!」
「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!?あ、悪魔!?」
その、あまりの迫力を前に男は目に涙を浮かべて腰を抜かした。
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