第30話 伝えたい思いを 君に

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放り投げた大剣は、ちょうどショウコと魔王イーサの中間に落ちた。 「判断が早いなぁ。仲間の為なら、迷い無しか・・・甘いもんだ」 「勘違いすんな。誰がタダで渡すかよ」 「交渉か?そんな事をする気は毛頭無い」 ショウコが何を言おうがお構い無しと言わんばかりに、浮遊する腕で大剣を掴み取ろうとする。 「金だぁ!私も商人だからな。タダで渡すのだけはプライドが許さん!金だ、金持ってこぉぉぉい!!」 「金・・・だと?この期に及んで、金が欲しいのか?フハハハハハハハ!到底、理解できない守銭奴だ。笑わせてくれる、商人のプライドねぇ・・・くだらない」 ショウコの言葉を一蹴し、魔王イーサは大剣を手に取る。 すると、どこからか不思議な声が響き渡った。 『商人との取引ルールを破った事を検知しました。神罰を下します』 「な、んだとぉ?」 この世界は、基本的に物の売り買いは商人を通して行われる。 他のジョブに比べて戦闘能力が低い商人が強盗にあったりしないように商いの神はタブーを設けた。 タブーを破れば、神罰が下る・・・それは、ショウコ達の世界では常識中の常識である。 城の天井も壁もすり抜けて白い稲妻が降り注ぎ、魔王イーサを直撃!! 「ぐわあぁぁぁぁぁあ!?バカな・・・ここは魔界・・・私の世界だぞ!?」 這いつくばる魔王イーサを見下ろしながら、ショウコはゆっくり歩み寄り、大剣を拾う。 「ラカの神竜が魔界に来れたから、神の力は魔界でも行使されるんじゃねぇかって試してみたが・・・上手くいっちまったみてぇだなぁ?」 予想外なショウコの策により、事態は一変した。 「さて、決着つけてくる。ヘイビィ、ラカの回復頼む」 「フン、不本意だが歩けるくらいには回復させてやろう」 「ショウコちゃん~ 油断しないでね~!」 仲間達の声を背に、ショウコは魔王イーサの目前まで迫る。 「クソがぁぁあ!身体が言うことを聞かない、魔王の骸が動かないぃぃぃ!!」 「最後まで商人舐めてくれて助かった。ところで、手形って知ってるか?古の世界では、約束事をする際にハンコみてぇに手の形を押したんだとよ。それじゃ、いくぞぉぉぉ!歯ぁ、食いしばれぇぇぇ!」 ショウコは魔王イーサの胸ぐらを掴みあげ、大剣から手を離して全力顔面ビンタをお見舞いした! その一撃は魔王イーサの意識を断ち切り、魔王の骸がイーサの身体から分離し床に散らばった。 「二度と私らの前に現れんな。その面につけたのが、約束の手形だ」 「・・・剣拾った意味、無さすぎだろ」 「まぁ、ショウコちゃんらしいけどね~」 ちょっとだけ回復したラカは、痛みを堪えながらショウコを称賛した。 「ショウコにしか出来ない、逆転の一手だったな!素晴らしいぞ、本当に見事だった」 「ありがとうな、ラカ・・・さぁ、帰ろう。皆の所に」 「そういえば、ヘイビィちゃんは魔王の骸はいらないの~?」 「脱出の途中で浮遊魔大陸が落ちたら、元も子も無いからな。それに、あんな悪趣味な鎧は願い下げだ」 王座の間を出ようとする一向を突如、凄まじい衝撃波が襲う!! 完全に油断していたショウコ達は、思いがけない不意打ちを受けて壁に身体を叩きつけられた。 ヘイビィは咄嗟に自身に回復魔法をかけた為、意識を失うには至らなかった。 「な、何が起きた・・・」 しかし、ダメージはそれなりに大きく、すぐに立ち上がる事はできず倒れたまま、状況を確認すべく顔を上げる。 そこには、イーサは倒れているにも関わらず禍々しいオーラを纏って動いている魔王の骸があった。 「魔王の骸が・・・自立行動しているのか?いや、これは・・・暴走!?」 得体の知れない咆哮をあげ、魔王の骸は天を仰ぐ。 「クッ・・・何が、起きた?」 事態を把握せず、ヘイビィの真後ろで不用意に立ち上がったラカに向け、魔王の骸は尻尾を振るう。 「この、バカラカがぁ!!」 盾の魔法で防ごうとするも、槍のように鋭い先端は盾を破壊してヘイビィの身体ごとラカの身体を串刺しにした。 ゆっくりと尻尾を引き抜く魔王の骸・・・それから間も無くヘイビィは自らにかけていたリザレクションの効果で復活。 「ディメンション・ゲート!!」 ヘイビィは時間を稼ぐべく、魔王の骸を強制亜空間魔法で魔界のどこかへと飛ばす。 そして、ラカを見下ろす。 ラカの顔には生気が無く、完全に事切れていた。 ヘイビィはロッドを床に置き、ラカにリザレクションをかける。 恐らく、すぐに魔王の骸は戻ってくるに違いない・・・それまでに、何としても! リザレクションにより息を吹き返したラカは、ヘイビィが今まで見たことも無いホッとした表情をしているのを目の当たりにして驚いた。 「ヘイビィ・・・か?」 「呆けるな、バカラカ。それより、ここは不味い。ショウコ達を起こして、退く・・・」 唐突に壁が崩れ落ち、魔王の骸の尻尾が再びヘイビィの身体を貫く。 吐血と共に、ヘイビィはラカに向けて口をパクパクさせる。 何を言おうとしているのか、何が起きているのか、ラカには状況が全く理解できずにいた。 魔王の骸はヘイビィの死骸から尻尾を抜き、床に放り投げる。 そして、また天を仰いで咆哮した。 這いずりながら、ラカは冷たくなったヘイビィの手を握る。 「起きろ、お前の事だから自分にリザレクションをかけているんだろう?こんな時に、つまらない冗談はよせ・・・起きろ、ヘイビィ!!」 ヘイビィは自身に再びリザレクションをかけず、残る魔力を注いでラカにかけた。 それをラカは知る由も無い。 ヘイビィ・フォグ 死亡
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