第30話 伝えたい思いを 君に

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「あ、あぁ・・・ヘイビィ・・・」 鎧の破損状況、傷が塞がった跡、、自分にリザレクションをかけられなかったのだと悟った。 生命を失った冷たい手を握り締める・・・覚えがある感覚。 瓦礫に押し潰された母の手を泣きながら握り締めた事を思い出す。 災害で両親を失い、孤児となり・・・形見の指輪が小指にすら入らなくなった。 孤児院で料理の手伝いをしている時、カボチャが切れなくて困っている調理師から包丁を借りて切ってみせた。 「ラカちゃん、パワーあるなぁ!?戦士とか向いてるんじゃないか?」 最初は普通の人より力があるだけだと思っていたが、力は人並みだった。 戦士が扱うような重武器は扱えそうに無いから、剣士の方が向いてそうだと思い、その道に進む事を決めた。 学友との模擬戦で、私は立て続けに対戦相手の剣を折った。 「ラカの剣だけ、材質違わないか!?おかしいだろ!」 自分でもおかしいと思い、教師に相談した結果、能力鑑定士の元を訪ねる事になった。 「ラカさんは、武具性能向上の固有スキルを持ってますね・・・生まれつきでないなら、ギフトかも知れません」 「ギフト?」 「ご両親、お亡くなりになってますよね?愛する人を残して先立つ際、善人の最後の願いを聞き届けた神が特殊な才能を与える事をギフトと言うんですよ」 その日まで、どこか冷めた感覚で過ごしてきた私の心に火が灯った気がした。 この力が両親の愛なら、役立てなければならないと思った。 冒険者となり仲間探しをしている最中に偶然、恐ろしく強い戦士と僧侶が魔物達を倒すのを見かけ、身体に電気が迸るような衝撃を受けた。 私は二人を追いかけ、ギルドで声をかけた。 「さっき、君達が戦ってる所を偶然見かけたが、素晴らしい強さだった!君達となら、魔物にも邪神崇拝者達にも負けないパーティーが作れると確信した!私達で世界を救おう!」 駆け出しの熱血冒険者の台詞は、回りにいたベテラン達には戯言にしか聞こえなかったのだろう。 周囲の笑い者にされ「ノンデリ」と言われて断られた。 ノンデリの意味が分からなかったので、調べてみたらデリカシーが無いという意味だった。 あの頃は熱い気持ちをぶつける事が悪いと思っていなかったので、改めるきっかけになった。 それからも声をかけ続けた、ある日・・・ショウコから「見合う実力か見極めさせろ」と模擬戦を提案された。 結果は惨敗。 だが、一本でも取れれば私を認めて仲間として認めてくれるかも知れない!そう思い、挑戦を続けたが・・・実力の差は激しかった。 「あなた~ 毎日コテンパンにされてるのに、諦めないのね~」 ショウコに負け、模擬戦場のベンチで横になっていた私に話しかけてきたのがオウルだった。 「ショウコと一緒なら、きっと沢山の困っている人達を助けられる。そんな予感がする・・・いや、確信と言っても過言では無い」 「ふ~ん ところで、一言良いかしら~?」 「・・・はい?」 「そのショウコちゃんと一緒にいる僧侶ちゃんの事も見てあげないと、上手くはいかないと思うわよ~」 「???」 話を理解していないと悟ったオウルは、溜め息混じりで「将を射んとせばまず馬を射よ」と語った。 それから、自然とオウルと話をするようになった。 そして、邪神崇拝者達の手により大量発生した魔物から町を守る際にショウコ、ヘイビィと共闘した事がきっかけとなり正式にパーティーを組む事になった。 その際、オウルから口酸っぱく言われた「ヘイビィちゃんも必要だって事をアピールしなきゃダメよ~」を実践できたのが良い結果に繋がったと思う。 「ヘイビィ、ショウコだって食事くらい自分で出来るだろう」 「口出ししないで下さいます?」 私はヘイビィがショウコの世話を焼くのを見るのが嫌だった。 ショウコの為にならない・・・と言うのは建前で、母を思い出すからだった。 母は私に甘かった・・・カトラリーを使えるようになっても「あ~ん」をして食べさせてくれた。 父は呆れていたっけ・・・私はショウコが羨ましかっただけ。 ヘイビィに母を重ね、勝手に寂しい気持ちになって突っかかっていただけ。 それから、大喧嘩した後も謝れなかった。 謝りたかった。 本当の気持ちを伝えたかった。 もっと仲良くしたかった。 それなのに、すっかり闇落ちして現れて・・・相容れない運命なんだと諦めた。 それがなんで今になって・・・私の為に命を落とす? 耳障りな咆哮・・・止めてやる。 今の私に、その力は無い・・・だから、深く目を閉じる。 暗闇の中には、鎖でがんじがらめにされている『黒い私』がいた。 それは保留されてある邪神化の契約を象徴していると感覚的に理解していた。 誰よりも邪神化するのを止めてくれた君の仇を討つ為に邪神化するなんて・・・皮肉な話だ。 勘違いだったら良かった。 あんなに邪神化するのを止めるという事は、案外嫌われてないんじゃないかって・・・勘違いだったら良かった。 鎖を引きちぎり、黒い私を取り込む。 もう、人である事に未練は無い。 ()の仇を討てるなら。
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