第30話 伝えたい思いを 君に

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魔王の骸には、さっきまでイーサが収まっていた部分に、人の影のようなオーラが浮かび上がっていた。 「あれは何だ?」 「多分、魔王の残留思念体ね~ 狙うのはさっきと同じく頭部でOKだと思うわ~」 オウルの話を聞き、ラカは眉をひそめる。 「残留思念・・・そんなモノにヘイビィは・・・」 「ラカ、熱くなるなよ。今はクレバーに、終わったら私は全力で泣くから誰か胸貸してくれ」 「私も負けじと全力で泣くから、オウル宜しく頼む」 「それ~ あたしに二人をハグしろって意味~?まぁ、良いけど・・・ほら、動き出すわよ!」 爆発魔法弾で破損した腕が復元し、魔王の骸は咆哮と共に攻撃を開始。 腕二本と尻尾の攻撃はショウコとラカで防ぎ、闇魔法はオウルが相殺する。 魔法はイーサと同化していた時の方が威力高いわね~ でも、腕と尻尾の攻撃は今の方が鋭い。 それより、警戒すべきは不意打ちとは言えあたし達全員の意識を奪った攻撃。 何をされたのかは分からないけど・・・皆、警戒してね~! 戦いながら、オウルはテレパシー魔法で注意を促す。 激しい戦いの中、一瞬の隙をついたショウコの一太刀が魔王の骸の頭部を命中した! 最初につけた亀裂が広がり、魔王の骸が悲痛な叫び声をあげる。 「効いているな!」 「良し、畳み掛けるぞ!」 追撃しようとするショウコとラカをオウルは怒鳴りつけた。 「警戒して!」 次の瞬間、オウルの心配が現実となる。 魔王の骸の骨の翼に緑色の輝きを放つ皮膜が現れ、羽ばたかせた。 凄まじい衝撃波が辺り一面を迸り、全てを吹き飛ばす!! 「早すぎだろ・・・広範囲の回避不能攻撃スキルかよ!?」 身構えていたおかげで、衝撃波によるダメージを辛うじて抑える事ができたショウコは、立ち上がろうと腕に力を入れる。 早く立たなきゃ、止め刺されちまう! しかし、魔王の骸は止めを刺すより例の咆哮に興じた。 「何なんだ、あの雄叫びみたいなの?」 額から流れる血を手で押さえながら、オウルが言った。 「多分、制限付きの強力なスキル・・・ってとこでしょうね~ 例えば使用した直後は、必ずあれをやらなきゃいけないとか・・・じゃないかしら~」 「あぁ、そういえば聞いた事があったな・・・そういう儀式みたいなのが必要なスキルって訳か。強いが、少しは立て直す時間が貰えるならありがてぇ・・・って、もう終わりかよ」 咆哮を終えた魔王の骸が尻尾をしならせ、ショウコに攻撃を仕掛けようとした。 ラカは打ちどころが悪かったのか気絶してる。 躱せば、オウルがやられる・・・正直しんどいが、受け止めるしか! 覚悟を決めた、その時! 穴の開いた天井から声が響く。 「来て、破滅(もたら)す水神龍・・・全てを飲み込み無に返せ!!」 そこには空中浮揚し、ウンディーネロッドを構えているエマの姿があった! エマの放った水の神霊魔法 水神龍が魔王の骸を飲み込み、壁を突き破り城外で花火のように爆散した。 「え、エマ!?」 「エマちゃん!?」 「師匠!と・・・ショウコ?」 エマがショウコの見た目の変化に驚いていると、舞い戻って来た魔王の骸が大きく口を開いてエマに向かって魔法を放つ! しかし、電光石火状態のショローンがエマを抱きかかえて魔法攻撃を回避した。 「あっぶな!?神霊魔法当たったのに、すぐ反撃してきたんですけど?」 「あまり効いて無いようだな」 二人の登場に驚きながら、ショウコはエマ達に問いかける。 「エマ、ショローン・・・加勢に来てくれたのか?」 「ぬぁによ?なんか、あんまり嬉しそうじゃないわね?今、私が来なかったら危なかったでしょ?てか、イメチェンしたのショウコ?」 「おぉ、スゲェ浴びせかけてくるな・・・とりあえず、ナイスフォローだよ。ありがとうな、エマ」 「素直に言えて宜しい!師匠は、大丈夫?」 「エマちゃん・・・相手は頭部を破壊するまで動き続けるわ」 「分かりました、前衛が斬り込めるように援護します!」 言うが早いか、エマは魔王の骸に向けて臨界圧力超高熱放水魔法を放つ! ショローンは倒れているラカを見つけ、抱き起こす。 「ラカ、しっかり」 「うぅ・・・ショローン?」 ラカは思わずショローンから目を逸らす。 「すまない、ショローン・・・ヘイビィは・・・」  「さっき見た。ラカ、戦えないならそこで休んでいろ。後は、ボクがやる」 「・・・挑発が上手いな。まだまだやれる、行くぞ!」 「ボクの足を引っ張るなよ、ラカ」 ショローンに引っ張られるように、ラカは戦線へ復帰した。 エマ、オウルが魔法で援護し、電光石火状態のショローンが斬り込む。 更にショウコとラカが同時に一太刀を浴びせ、魔王の骸の頭部に大ダメージを与えた! 「良し、あと少しで破壊できるぞ!」 あと、一撃!! 誰もがそう思った瞬間、魔王の骸は更なるパワーを発揮する。 咆哮と共に動きが早くなり、ラカとショローンを一気に殴り飛ばす! 「パワーもスピードもアップした!?」 「底知れないわね~!エマちゃん、同時攻撃よ!」 二人同時の魔法攻撃を回避した魔王の骸にショウコが斬りかかる! 「これで、終わりだぁぁぁ!!」 しかし、動きを読んでいたと言わんばかりに鋭い尻尾の先端がショウコの大剣を弾き飛ばし、脇腹を抉った。 「しょ、ショウコ!?」 「ショウコちゃん!!」 血を吐き出しながら、ショウコは跪く。 「よくもショウコを・・・ブッ飛べぇぇぇ!!」 魔力を限界まで放出し、再びエマは水神龍を放つ! しかし、両腕を盾にした魔王の骸は水神龍の直撃を回避した。 「何なの、コイツ・・・魔法に対してタフすぎる!」 口を大きく開き、魔王の骸はエマに狙いを定める。 「エマちゃんは、やらせはしないわ!」 魔力を使い果たし、へたり込んだエマを守る為にオウルが身を盾にした。 魔王の骸が口から魔法を放とうとした瞬間! アルテポーションを飲み、完全回復したショウコは竜の力を解放させて近くに落ちていた武器を拾って魔王の骸に殴りかかる! 凄まじい打撃音と共に魔王の骸の頭部が、とうとう砕け散った。 ショウコが最後に手にした武器は、ヘイビィが愛用していたダンガリウム鉱石を先端にあしらったロッドだった。 「・・・最後に二人で作った思い出に助けられたよ。ありがとう、ヘイビィ」 ロッドを握り締め、ショウコはヘイビィの事を思って涙を浮かべる。 今度こそ一件落着・・・そう思った瞬間、浮遊魔大陸が激しく揺れ始めた。
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