第30話 伝えたい思いを 君に

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「な、何だ?地震?」 「浮いてる大陸なのに!?」 一息吐く間も無く、起きた異変に狼狽えるショウコ達の前にボロボロのジェノ・斎藤が姿を現す。 「イーサ様・・・」 気絶しているイーサを抱きかかえたジェノは魔王の骸を見つめた後、俯く。 「おい、何が起きてるんだ?」 「魔王の骸のエネルギーが失われ、浮遊魔大陸が落ちはじめています。そうなれば、皆・・・助かりません」 「ま、マジか!?クソッ、ここまで来て全滅エンドなんて面白くも何とも無いだろ!」 しかし、この現状をどうにかできる力は持ち合わせた者はこの場にはいなかった。 そう、この場には・・・ 「・・・ん~良く寝ましたわ」 ようやく目を覚ましたリリィは、フロスティの膝から頭を上げて背伸びをした。 「リリィ様ぁ!」 「フロスティのお膝が気持ち良すぎて、なかなか起きられませんでしたわ。どうやら、イーサから解放してくれたみたいですわね。知らない方々も多いですが、ありがとうございます」 リリィがカテーシーのポーズで礼を言った瞬間、浮遊魔大陸が激しく揺れ始めた。 「な、何事ですの?」 耳が良い月音は、気圧の変化により大陸の高度が落ちている事を察した。 「浮遊魔大陸が、落下し始めてみたいだねー」 「な、何だと!?」 月音の話を聞いたリリィは、髪を軽くかきあげて問いかける。 「今の会話から察するに、ここは所謂、浮島ですわね?下に大地はありますの?」 「はい、下は広大な砂漠となっております」 「砂漠・・・まぁ、何とかなりそうですわね」 そう言って、リリィは魔力を高めながら意識を集中させる。 「リリィさんは、何を?」 「いや、私にも何が何だか・・・」 チッサの質問に対し、フロスティも困惑気味に答える事しかできない。 「皆さんに、ワタクシが如何に一流かをお見せして差し上げますわ。おいでなさい、愛憎の地母神!!」 地鳴りと共に砂漠から、祈るように手を組み目を瞑っている超巨大な美しい女神が降臨した! 女神は「ああぁぁぁぁぁいぃぃぃぃぃ!!」と奇声を発しながら巨大な身体で落下する浮遊魔大陸を掴み、優しく砂漠の大地へとおろす。 一同が唖然とする中、リリィは高らかに笑う。 「オーッホッホッホッホッホッ!ワタクシにかかれば、隕石からだって皆さんをお守りするのは容易くてよ?オーッホッホッホッホッホッ!」 時、同じくジェノの映像魔法からリリィの活躍を見ていたショウコ達はホッと胸を撫で下ろしていた。 「リリィのやつ、とんでもねぇファインプレーかましたなぁ」 「デタラメなところは、なんかショウコっぽいわよね」 「うむ。何にせよ、これで今度こそ終わったな」 「まだよ~ イーサをどうするか、決めなきゃね~」 ショローンは冷たい瞳でジェノが抱きかかえているイーサを見据え、大剣を向ける。 「お待ち下さい。どうか、私の話を聞いていただけませんか?」 ジェノはイーサを床に置き、跪きながら深々と頭を下げる。 「・・・聞くだけ聞いてやる。なんだ?」 「浮遊魔大陸にはイーサ様が必要です。今後、一切エマ様とリリィ様には手出し致しません。どうか、命だけはお救い下さい」 互いにボロボロだが、ジェノはイーサを守りながら戦うのは無理だと判断し停戦を試みる。 「イーサの執着心は凄まじいモノだったわ~ あの情念をあなたにどうにかできるとは思えないわね~」 「魔法で記憶を操作し、姉妹がいなかった事に致します。そうすれば、根元的な解決になるハズです。そして、皆さんが無事に帰れるようを差し上げます」 ジェノは内ポケットから扉を出した。 「この扉を使えば、皆様の世界にも邪神界にも行く事が可能です。私はイーサ様を失う訳にはいきません。この世界の為にも・・・どうか、見逃して貰えないでしょう?」 ショローンは大剣をしまい、ヘイビィの亡骸を抱きかかえる。 「誰か、マスターの遺体の傷を塞いでくれないか?」 「・・・分かったわ」 エマはヘイビィの遺体を魔法で綺麗に治す。 「ありがとう。もう、ここには用は無い。ボクはマスターを連れて帰る」 ショローンの言葉を聞き、ラカはやるせない表情でヘイビィの遺体を見つめて涙を流す。 ショウコも今まで堪えてきた気持ちを露にし、涙を溢れさせる。 オウルも涙を浮かべながら、そんな二人を約束通り抱き締めた。 「マスターは幸せだな。本気で泣いてくれる友がいて・・・さぁ、行こう」 オウルがジェノの扉を回収し、一行は仲間達の元へ向かう。 歩きながら、エマはショローンに問いかけた。 「良かったの?これで」 「手負いとは言え、大邪神相手に再び死闘を演じるのは割りに合わない。それにマスターの遺体をこれ以上、傷つけたくないからな」 「そっか・・・」 エマは振り返り、遠ざかる崩壊した城を見つめながら小さな声で呟いた。 「さよなら、イーサ姉様」 様々な思いを胸にエマはイーサに別れを告げ、一行は仲間達の元へと戻った。 「ショウコ、エマさん!皆、無事で何よりです!」 チッサ達に迎えられ、ショウコ達は元の世界に戻るべく扉を開く。 「エマお姉様、イーサは?」 「使えている大邪神が、私達の記憶を操作して二度とちょっかい出さないようにする・・・とは、言ってたわ」 「そうですの。まぁ、別にまたちょっかい出してきたら返り討ちにするだけですけど」 「ふふ、そしたらまた一緒に戦ってくれる?」 エマの言葉を、リリィは素っ気なく返す。 「まぁ、考えておいて差し上げますわ」 キョウカは邪神化して戻ってきたラカを見て、唖然としていた。 「どうして・・・」 「色々あってな。やはり、私は邪神界に行こうと思う。元の世界じゃ、追われる身だし・・・キョウカと一緒にいたいしな」 こうしてラカはキョウカと共に邪神界へ行くことを決め、ショウコ達に別れを告げる。 「そんな訳で、行ってくる」 「じゃあ、またな。ラカ」 「この扉があれば、またきっと会えるわ~ 一先ず、元気でね~」 「うむ。達者でな」 子供の姿に戻ったキョウカは指輪をはめ、ラカと手を繋ぎ扉の中へと姿を消す。 「行っちまったな。じゃあ、私らも行こうか!」 ショウコ達も元の世界に帰り、各々が各々の帰るべき場所へと戻った。
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