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「いらっしゃいませ~ こにち、わわわわわわわ」
相変わらずスポンジ○ブみないな喋り方で挨拶をしてるが、仕事はめちゃくちゃ早い。
これなら、1日目でクビにはならないだろう。
私も面目躍如を果たせそうだ。
そう思ってホッとしている所に、金髪の青い鎧を着た男がやって来た。
「よう、エマちゃ~ん!今日も可愛いねぇ!そろそろ※ス魔ホの連絡先、教えてよ~」
※ス魔ホ 私達の世界でいうスマートフォン的な魔法のアイテム。
嫌な客が来た・・・コイツの名はパツキーン。最近、街の近くに出没するヒュドラという魔物を狩りに来た冒険者グループのリーダーなのだが、しつこく言い寄ってくる。
店長とチーフに相談したが、何だかんだ言ってこれといって動いてくれない。
「なんだ、エマ。このツンツン金髪野郎、知り合いか?」
「知り合いじゃない。知りたくも無い。ただの客よ」
辛辣な私の言葉を聞いてもなお、パツキーンはヘラヘラしながら話しかけてくる。
「いや~ツンデレだねぇ。この、パツキーン様の誘いに素直になれないなんて」
ツンデレの解釈、おかしくね?
一瞬足りともデレてないし・・・コイツ、自分の都合良い方に事実をねじ曲げるタイプだわ。
ムスっとした表情の私をショウコが不安そうに見つめている。
心配してくれているのだろうか?
「ほら、エマ。お客様には笑顔だろ」
空気読めないやつだ!いや、良く見ると半笑いだし・・・分かって言ってやがる!性格、わる~!
私が苦虫を噛み潰したような顔をしているのを見て、満足したのかショウコはパツキーンの方へ顔を向けた。
「商品、持ってないみたいだけど買い物しないならどいてくれないか?次のお客さんが待ってるし」
「なんだ、その態度は?俺は、このスーパーで1番の高額武器『ヘヴィアックス』を買いに来てやってるんだぞ!」
ヘヴィアックス・・・確かに、ウチのスーパーの武器だと1番高額のバカデカイ斧だけど、こんなヤツに使いこなせるだろうか?
冒険者には格付けがあり、右耳のピアスの色を見ればレベルが分かる・・・嘘、コイツ『ゴールド』だ。
初級冒険者はブロンズ、中級はシルバー、上級はゴールド、最上級はブラックという風にランク付けがされている。
コイツ、口だけじゃなく実力はあるのか・・・だから、店長もチーフも黙り決め込んでるのかも知れない。
パツキーンの声が聞こえたらしく、ぽっちゃり体型の丸眼鏡をかけた青ヒゲがやけに目立つチーフがサービスカウンターから出てきてゴマをすり始めた。
「流石、上級冒険者様はお目が高い!すぐに、係の者に運ばせますので」
「いや、その必要は無い。エマちゃ~ん、運んできてくれるかな?俺の馬車まで」
あんな見るからに重い武器、私みたいなカヨワイ女子が運べる訳が無いじゃない!
「いや~お客様、流石に女の子が持ってこれるような品物じゃ・・・」
「あぁ?俺はエマちゃんが持ってこないなら買わねえぞ。持ってきてくれるよねぇ~ お客様は神様だよ?なぁ、チーフさんよぉ?」
「は、はい。エマちゃん、台車使って良いから持ってきて!」
どいつもコイツも、ろくでもない連中ばかりだ。
そもそも、台車に乗せるのだって一人じゃ無理に決まってる!
うつ向く私を見て、ショウコがチーフに言った。
「私も手伝って良いか?エマは私の教育係だし、隣にいないと仕事できねぇし」
「あぁ、潮畑さん力ありそうだし、お願いして良いかな?」
「アイアイサ~ エマ、武器庫に行こう」
「う、うん」
なんだ、結構良いやつじゃない・・・ちょっと見直したわ。
「ありがとう、ショウコさん」
「エマのおかげで挨拶恐怖症も少しは克服できたしな。それより、大丈夫か?」
なんか、もろに社会不安障害ワードみたいなの出てきたけど、あなたこそ大丈夫なの?と、言いかけたが、そこは飲み込んだ。
「うん。大丈夫だよ。お客様は神様らしいから」
「・・・神様ねぇ。なんなら、私があのクソ野郎を仏様にしてやろうか?」
「なに、物騒な事を言ってるのよ。あんなんでもゴールドピアスだよ。いくらガタイが良くても商人学校卒業ホヤホヤのショウコさんが敵う訳ないじゃない。でも、ありがとう」
武器庫に入ったショウコは、私の身長くらいもあるヘヴィアックスを手に取り・・・片手で軽々と持ち上げた。
「へ?」
「思ったより軽いな。これなら、台車いらねぇわ」
あれかしら、やっぱり高級武器だから見た目より軽い仕上がりってやつ?
ショウコにヘヴィアックスを持ってもらい、武器庫から出ると・・・何やら店内が騒がしい。
スタッフの一人が大きな声で叫んだ。
「ひ、ヒュドラが町に向かってきてるぞー!避難しろー!!」
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