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猛毒の吐息を吸うと、毒に侵され徐々に体力を奪われる!
通常なら、そうだがヒュドラは三つの頭から同時にそれを行った・・・単純に考えても普通の魔獣の三倍の効果があるに違いない。
しかも、煙幕みたいに視界を奪われてしまう。
「んが!?くっさ!臭いんですけど!」
ショウコのヤツ、毒煙を吸い込んでる!
「んんんんんんん!?」
毒煙に隠れられ、ヒュドラの姿を完全に見失っているみたい。
ショウコは、ほっぺを膨らませて変顔してる・・・息を止めてるんだろうけど、あんなのでいつまで持つか分かったもんじゃ無い。
毒煙の中から、ヒュドラは首を鞭のようにしならせてショウコを攻撃している!
カウンターを狙ってヘヴィアックスを振ってはいるけど、攻撃を食らうばかりで当たらない!
私は、いてもたってもいられず魔法を唱えた。
「風の精霊、力を貸して!」
風を起こし、空へ飛んだ私は空中浮揚して上空から更に風を起こした。
これで、毒煙を散らしてやる!
毒煙が四散し、姿を隠していたヒュドラの姿が露になった!
「ショウコ、今よ!」
「サンキュー、エマ!!」
ショウコはヘヴィアックスを振るい、ヒュドラの首を二本まとめて斬り飛ばす!
「さぁて、ようやく本体のみになったな。おらぁ!」
は?
何故か、ショウコは最後に残ったヒュドラの額を掌で勢い良く叩いた。
すると、獰猛だったヒュドラが急に大人しくなり「ぴえ~ん」と可愛らしい声で鳴きながら湿地帯方面へ逃げて行ってしまった。
私はフワフワと落下し、ショウコの元へ着地して尋ねる。
「良かったの?トドメ刺さないで」
「あぁ、これ見て」
ショウコはヒュドラを叩いた手を私に見せた。
その手には、赤紫色をした石の破片が散らばっている。
「何なのよ、これ?」
「前に、これと同じモノを額に埋め込まれた魔獣を退治した事があってな・・・どうやら、魔獣を操る魔石らしいんだ」
「え!?つまり、ヒュドラは誰かに操られていたって事?」
「そういう事だろうな。前は退治してから気付いたから・・・今回は、そうなる前で・・・良かった・・・っく!?」
話している最中、ショウコがガクっと膝をついた。
「毒ね!?ちょっと口を開けて!水の精霊、ショウコの身体に入った毒を洗い流して!」
「おい、待て!その大量の水、どうする・・・ごばぁぁぁぁぁぁ!?」
ゲロゲロゲロゲロ・・・
「どう、スッキリしたでしょ?」
「公衆の面前でゲロさせるなよ!でも、マジで助かったよ。援護してくれて、ありがとうな・・・エマ」
ゲロまみれで微笑むショウコを見て、私は汚ないの半分、照れ臭いの半分で顔を逸らした。
「さっき、言ったじゃない。困ったら、フォローするって。有言実行しただけよ」
「そっか。なぁ、さっきの金髪野郎には教えなかったス魔ホの連絡先さ・・・私でも、嫌か?」
遠回しな口振りが何だか妙に可笑しくて、私は声を出して笑ってしまった。
「あははは、素直に連絡先交換しようって言えば良いじゃない。後で、ね?」
私達は、まだ騒然としている店に戻り勤務を終えた後に連絡先を交換した。
何気に、こうして人と連絡先を交換するのは久しぶりだな。
「じゃあ、また明日ね」
「おう、明日は・・・もう少し、マシな挨拶できるように頑張るよ」
何か、ショウコって掴み所が無い感じだけど・・・良いヤツっぽいな。
「うん!私が、一人前にしてあげる!ビシバシいくからね?」
「いや、私みたいなトラウマ持ってる人間には飴より甘く接するのが良いと思うぞ?」
でも、やっぱり・・・ちょっとウザイ。
何だか、明日のバイトが楽しみになってきた。
夏休みが終わるまでに、仲良くなれたら・・・良いな。
翌日
「あれ?チーフ、ショウコ・・・潮畑さんは、昨日と違う時間に出勤なんですか?」
ショウコ、まさか遅刻?二日目で遅刻は不味いだろ・・・そう思いながら、私はチーフの方を見る。
「あぁ、あのパートさんならクビにしたよ」
「えぇ!?だって、ヒュドラを追い払ったんですよ!誉められる事はあっても、クビにするなんておかしいですよ!!」
チーフはヒゲの剃り具合が気になるのか、剃り残しを確認するように顎を撫でながら答えた。
「いやいや、勝手に店の高額武器使って毒汚染状態にしたし、お客様を蹴り飛ばしたし・・・クビが妥当でしょ」
何を言ってるんだ、コイツ?
ショウコがヒュドラを追い払わなければ、店はおろか他のお客様だって怪我じゃ済まなかったかも知れないのに!
「・・・パツキーンにクレームでもつけられたんですか?」
「ほら、お客様は神様って言うだろ?エマちゃんも、あんなパートの事は忘れて仕事しようね」
私はエプロンを脱ぎ、チーフに手渡した。
「納得できませんから、私も辞めます。お世話になりました」
チーフは何も言わず、エプロンを受け取った。
店から立ち去ったエマを窓から覗き見ていたチーフは、部屋に店長が入ってきた事に気付き報告をする。
「案の定、辞めましたよ」
オールバックヘアに青い色眼鏡をかけた中年店長がタバコに火をつけて言った。
「折角、高額商品を売る為に用意した魔石が台無しだったな。今月は赤字になりそうだ。ある程度、店の事を済ませたら・・・行くぞ」
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