第2話 自然に優しい系 商人

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夏用の黒い全身着圧コンプレッションウェアの上に革製軽装鎧を纏い、ショルダーポーチをかけて山へと向かう。 「こういう装備は、ちゃんと売らずに取ってるのは偉いわね。てか、ショウコって前職戦士系でしょ?ギルドで討伐のクエストとかやった方が稼げるんじゃない?強いし」 「なんで私が前職戦士だってわかるんだ!?まさか探偵の端くれ者か!?いや、読心術!?」 心を読まれまいとしているのか、ショウコは慌てて両手で胸を隠す。 「あの戦いっぷり見れば、自ずと分かるでしょうが・・・で、どうなの?」 「ジョブには暗黙のテリトリーってのがあるんだよ。商人は商人ギルドのクエスト以外は基本的に受けない。冒険者ギルドもしかりってやつさ」 「ふ~ん。あと、商人なんだから自分で売り買いできるんでしょ?バイトとかする意味あるの?」 「卒業後、最低でも4,320時間の実務経験がなきゃ露店はおろか、自分の店を開けないんだ。だから、卒業した商人は皆、とりあえず経験積む為に最寄りのスーパーとかコンビニでバイト、パートするのが習わしって感じだな。今回、仕入れるアイテムも一般ピーポーには売れないから、近所の買い取り専門店で売るしか無い」 「へぇ~ ちなみに、ショウコは何時間消化したの?」 「・・・12時間」 うわぁ~先が長いなぁ、こりゃ! 山に入ると『この先、魔獣出現地帯 注意!』の看板が目に入った。 「この山は昆虫系の魔獣と小型魔獣が生息している。手こずるようなレベルじゃないが・・・念のため、エマは私の側を離れるなよ」 「わかったわ。ところで、目当てのアイテムとかってあるの?」 「カーバンクルの角だ。あれは魔法ブースト系アイテムの源になるから高く売れるんだ!獰猛な性格じゃないが、すばしっこいからゲットするのは一苦労だがな」 「カーバンクル・・・兎のような見た目で額に一角を生やした、可愛らしい魔獣だっけ?」 「そうそう。エマ、何気に魔獣に詳しいな」 「うん。本読むのが趣味だから、知識だけはあるんだ!」 「なるほどな。じゃ、行こうか!」 こうして、普通にショウコと話が出来ているのが少し不思議に感じる。 昨日は会話が成立しない場面が多々あったけど、今日のショウコは何だか頼もしい。 「羽音が聞こえる・・・巨大蚊が近くにいるな」 そう言って、ショウコはショルダーポーチから緑色の石棍棒を取り出した。 魔法のショルダーポーチは、見た目はコンパクトだが中は四次元仕様になっており何でも入るし、入っているアイテムをイメージすればすぐに取り出せる便利なアイテム。 それにしても、メイン武器が棍棒って・・・かなりワイルドなチョイスだな。 「エマ、炎の魔法は使うなよ。山火事になるかも知れない」 「わかったわ。まかせて!」 林の中から、巨大な蚊が飛んできた! 柴犬くらいデカイ蚊は、流石にグロテスクだけど私はそれくらいで「きゃー!」と悲鳴あげるようなヤワな性格はしていない。 「きゃー!デカイ、デカすぎるぅー!あひぃー!」 ショウコは半べそかいて棍棒を振り回している。 思っていた以上に蚊が苦手らしい。 これは見るに堪えない狼狽っぷりだわ・・・何とかしなくちゃ! 「水の精霊よ、力を貸して!」 手の平に作り出したソフトボールくらいの水で作った球体から、勢い良く水を放水する! 所謂、高水圧の水鉄砲だ。 勢いに飲まれた巨大蚊は近くの木にぶつかって動かなくなった。 「大丈夫、ショウコ?」 「フッ、私が手を下すまでも無かったな・・・雑魚がぁ!」 小物めいた台詞を口にしながら、ふんぞり返るショウコに冷たい視線を送る。 「やめて、そのナイフみたいに尖った視線。巨大蚊の吻よりダメージくらいそうだから!」 目当てのカーバンクルを探し、更に山奥へと足を踏み入れる。 虫の魔獣と戦ったり、休憩したり・・・そんなこんなで、川のほとりで水を飲んでいるカーバンクルを発見した。 ようやく見つけた!あれがカーバンクルか・・・額に生えた赤い一角が光を反射して宝石みたいにキラキラ輝いている。 尻尾がふさふさしていて狐みたい・・・図鑑で見るより、断然神秘的で可愛らしい! 「こいつはラッキーだ。こんなに早く見つけられるなんて、思ってなかった。前は三日かかって、蚊に血ぃ吸われまくったからな」 「それで蚊が嫌いになったのね・・・どうやって捕まえる?」 「シンプルに挟み撃ちだな。思ってたより、エマは強強だから少しくらい離れても大丈夫そうだし・・・私はこっちから、エマはそっちから」 「わかったわ」 ショウコの指示に従い、回り込もうと動き出す・・・ん? 何か、森から聞き覚えのある声が聞こえてくる。 「今度こそ、上手くいくんでしょうな?」 「このままじゃ、赤字なんですよ!」 木の陰に隠れ、声のする方を覗き見ると・・・チーフと店長が黒いローブを着た怪しげな人物と何やら話をしている。 こんなところで、何をしているのだろうか? 息を潜め、聞き耳をたてる。あからさまに怪しい・・・念のため、ス魔ホで会話を録音しておこう。 黒いローブを着た人物はフードを深く被っていて顔は見えない。 「問題無い。魔石を埋め込んだ森の主『サイベアー』を暴れさせれば、また冒険者共が貴殿の店で武器を買う。魔石は一ヶ月ほどで自然消滅するし、証拠は残らん。勿論、ヒュドラと同じように店は破壊させないように操作する。貴殿等は何も心配する事は無い」 「おお、それは頼もしい」 「昨日は正義の味方気取りのパートとバイトに邪魔されたが、これを機にガッツリ稼がせてもらうとしよう」 なんて事を・・・あのヒュドラ騒動も店長達の自作自演!? 早く、ショウコに知らせないと!
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