第2話 自然に優しい系 商人

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緊急事態だわ!一刻も早く、ショウコに知らせなきゃ! そう思い、慎重に動き出そうとした瞬間・・・パキッ!と、音が響いた。 足元に落ちていた小枝を踏み折ってしまった! こんな有りがちなミスを犯すなんて!? 「何奴!!」 風の精霊に頼み、強風に乗って一気にショウコがいる川のほとりまで飛ぶ! 勢い余って森から飛び出した私の前には、狙っていたカーバンクルが「何事!?」と言うように驚いて尻尾をピンッ!と伸ばしている。 そのまま、カーバンクルは森の奥へと逃げて行ってしまった。 「おいおいおいおい!?何やってんだよ、エマ!!」 「怒鳴らないでよ!それより、大変なの!」 話をしようとしているのに、ショウコは全速力でカーバンクルを追いかけて走り去ってしまった。 「もう!話を聞きなさいよ!」 急いでショウコを追いかけると、ショウコは木の陰に隠れて一点を見つめている。 「ショウコ!」 「バカ、デカイ声で呼ぶな!ヤバい奴のところに逃げ込まれたんだよ!」 小声で言うショウコに習い、見つめていた先に目を向けると・・・鼻の上にサイのような一角を生やした熊がいた。 「あれって、まさかサイベアー!?」 「そうだ。さっき、手こずる魔獣はいないって言ったが・・・主は別格だ。てか、本当に物知りだな。サイベアーまで知ってるなんて」 「違うの!さっき、店長とチーフが怪しい奴と話をしててサイベアーに魔石を埋め込んだって!ヒュドラの件も売上アップの自作自演だったのよ!」 ショウコはサイベアーの額を見て、舌打ちをした。 「チッ!確かに、魔石が埋め込まれてる。って事は・・・不味い!!」 突然、ショウコは木陰から身を乗り出して駆け出した! さっきのカーバンクルが、主であるサイベアーに助けを求めるように駆け寄って行く・・・え!?サイベアーが、腕を振り上げた!? 「危ない!」 間一髪、飛び出したショウコがカーバンクルを抱きかかえて庇ったお陰で、カーバンクルは無傷・・・でも、ショウコの背中にはサイベアーの鋭い爪跡が残り、血が滲み出ている! 「ふ~ 間一髪だったな。しかし、革の軽装鎧じゃ防ぎきれない強烈な一撃・・・流石、森の主サイベアーだな」 「感心してる場合じゃないでしょ!」 そう言いながら、私はショウコの隣に立つ。 「まぁ~た、お前らか!どこにでも湧いて出る・・・ウジ虫か!」 「さっきの話を聞いたようだな。可哀想だが、生かして返す訳にはいかなくなった。恨むなら自分達の薄幸を恨むが良い」 サイベアーの後からチーフに続き、店長、黒いローブのヤツが姿を現した。 「・・・ここは、サイベアーに任せて引き上げる」 「でも、魔術師様!万が一って事は?この女、ヒュドラを倒したんですよ!」 「問題無い。サイベアーはヒュドラより小さいが危険度は遥かに上回っている。それに、こいつは雑食だ。骨までしゃぶって証拠は消してくれる」 そう言って、立ち去ろうとする三人に向かってショウコが怒号を飛ばす! 「お前らも、商人の端くれだろ!こんなやり方で金を得て恥ずかしくないのか!商人としての誇りと商魂はどこへやった!!」 振り向いた店長が振り向き、色眼鏡のズレを指で直しながら言った。 「商魂の意味、分かってるのか?商魂ってのは、あくまでも商売の事を第一に考えて事に当たるさま。 商売根性が非常に盛んである様子って辞書に書いてるんだよ!つまり、紛れも無い商魂だ。もう少し、勉強したまえ。まぁ・・・もう、二度と辞書を開く事は無いだろうがな」 「あ、本当だ。書いてる」 ショウコは呑気にス魔ホで商魂の意味を検索している・・・絶対に今じゃ無い! 「なら、私が新しく意味を付け加えてやるよ。商魂ってのは、商人が魂を込めて正々堂々と世のため人のために稼ぐ様を言う・・・ってな!」 「勝手に言葉の意味を変えるんじゃねーよ!店長、早く戻って閉店作業しましょう」 その言葉を最後に、三人は姿を消した。 「ウガァァァァァァァ!!」 サイベアーが威嚇の雄叫びをあげると、空気がビリビリと振動して森から鳥や小動物が逃げたし始めた。 さっき助けたカーバンクルをショウコは優しく地面に下ろしたが・・・腰が抜けてしまったのか、ブルブル震えたまま逃げようとしない。 「参ったな、こりゃ・・・エマの風魔法でワンチャン逃げれるかと思ったけど、逃げたらカーバンクルが襲われちまうな。エマ、援護頼む!」 私は溜め息を吐いてから、返事をした。 「はぁ~ わかったわよ。ショウコってさ、強者なのかも小心者なのかもわっかんないし、心優しいのか、ろくでなしなのかも分かんない・・・どんなキャラなの?」 ショウコは、いつもの得意気な顔で笑みを浮かべた。 「私か?私は・・・商人だ!自然に優しい系のな!」 「相変わらず、商人強調するわね~ じゃ、援護(フォロー)は任せて!それより、傷は大丈夫なの?回復は?」 「大した怪我じゃないから、大丈夫だ。魔力は温存してくれ。さて、おっぱじめるとしますか!」
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