第2話 自然に優しい系 商人

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『長年の御愛顧ありがとうございます。当店は誠に勝手ながら本日を持って閉店とさせて頂きます』 二日後・・・働いていたスーパーの前を通りがかると、正面に張り紙がされていた。 悪いことした挙げ句、自分達で大切な店を潰しちゃうなんて・・・愚かとしか言いようが無い。 水色のワンピースに麦わら帽子を被った私は、そのままショウコのアパートに向かう。 チャイムを押すと、昇龍と書かれたTシャツと黒いスウェットパンツ姿のショウコが顔を出した。 「いらっしゃい、エマ・・・今日は髪、ほどいてるな」 「こんにちわ、ショウコ!仕事の時以外は、揺ってないんだよ。それより、アパート代は払った?」 「あぁ、それな。騎士団から色々聞かれて疲れちまってな・・・まだなんだ」 「今日、払わないと追い出されるんでしょ?早く売りに行かなきゃ!」 「それもそうだが、ほら分け前はしっかりしとかないと、な?」 「分け前?」 私が首を傾げると、ショウコはカーバンクルの角を差し出した。 「これは、エマのモンだ。カーバンクルも、きっとそのつもりだったと思う」 何なの、なんか・・・今日のショウコ、ちょっとカッコ良くない!? 私はショウコの気持ちに応え、カーバンクルの角を受け取った。 「ありがとう。大切にするね!」 「あぁ、大切にしてくれ。じゃ、サイベアーの角を売りに行くとするか!」 私達はアパートを出て、買い取り専門店へと向かう。 「じゃ、ここで待ってな」 私を外で待たせ、ショウコは店へと入って行った。 それにしても、カーバンクルの角は本当に綺麗!加工して、ペンダントにする?いや、それにしては大きすぎるな・・・そうだ、ロッドの先端に装飾しよう! そんな事を考えながら角に見惚れている最中、店からショウコが出てきた。 「あ、おかえり~ これさ、ロッドの先端に装飾しようと思うんだけど・・・って、どうしたの?顔色悪いよ?」 褐色の顔が青ざめ、ショウコはゾンビみたいになっている。 「サイベアーの角な・・・信じて貰えなかった。なんなら、サイの角は密猟禁止条約に引っ掛かるとか言われて騎士団に通報されかけた。どうしよ~!アパート代、払えないよぉ~」 チラッ 「どうしよ~」 チラッ ショウコは私が手にしているカーバンクルの角を何度も何度もチラ見してくる。 さっき、ショウコをカッコ良いと思った過去の自分に「そいつ、ダメだよ」と伝えに行きたい。 まぁ、仕方ないか・・・そう思いながら、私は呆れ顔で角をショウコに差し出す。 ショウコは両手をこ擦り合わせながら、あからさまに媚を売り始めた。 「いや~ エマは可愛いし優しいし、絶滅危惧種より貴重だわ~ 是非、御社で保護したいですわ~」 そう言いながら、角を掴もうとするが・・・私は掴ませないようにサッっと動かす。 「え?くれないの?」 「ショウコ、商人らしく買い戻しなさいよ。一般人からタダで物を貰うとか、商人のプライドってのは無いの?」 「だって!金無いし!そうだ、物々交換!ほら、サイベアーの角、あげるから!」 「売れもしないモノなんか、いらない。そうね・・・私、もうバイトする気は無いから夏休みの間、ショウコのアパートに居候させてよ。実家は居心地悪いし」 「えー!?」 「ぬぁによ、そのあからさまに嫌そうな顔は!私みたいに可愛くて優しい女の子と一緒にいれて、嬉しくないわけぇ?」 「ウレシイデス。シヌホド、ウレシイDEATH」 何で片言、何で英語? そんなこんなで、私はショウコにカーバンクルの角を渡し・・・無事、アパート代をATMで支払い終える事となった。 「それなりに高く売れた?」 「まぁ、それなりって感じだったよ。てか、布団とかどうすんの?」 「魔法のポーチで運ぶから、ご心配無く!」 一旦、ショウコと別れた私は家に戻り必要なモノをポーチに入れた後、コンビニに立ち寄りATMでお金を卸してからアパートに戻った。 「いらっしゃい・・・じゃ、ないか。おかえり」 きっと、ショウコは特に何も考えずに言ったであろう「おかえり」が、私にはとても嬉しかった。 「さっきはバイトする気は無いって言ったけど、食べ物とかは自分で用意するから、近くのコンビニで働くね。ちょうど募集してるし」 「お!なら、さっそく行こう!スーパーより、時給安いからイマイチだけど、ノルマ達成させなきゃだし贅沢言ってらんないよな!」 私達はコンビニに履歴書を持って行き、面接を受けた。 職場も住まいも一緒っていうのは・・・なんか、ちょっとこそばゆい感じがするけど、夏休みの間だけだし、良い経験だよね! 翌日 「じゃ、私・・・行ってくるね」 「あぁ・・・いってらっしゃい」 面接の結果、私は受かったがショウコは・・・落ちた。 ゾンビみたいな顔色のショウコに見送られ、気まずさを胸にコンビニへと向かう。 その頃、買い取り専門店の店主がカーバンクルの角を業者と取引していた。 「え!?こんな安く売ってくれるんですか?」 「激安で仕入れたから、特別価格だよ!」 ショウコは、自分が売ったカーバンクルの角が売値の三倍近い金額で取引された事を・・・知る由も無かった。
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