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その2
「おはよー西澤!」
「おはよう」
「西澤今日さ、学校終わったら…」
それにしても昨日のあいつの目付き……
俺は何かとイライラする女子との会話もそっちのけで何故か田沼のことを考えていた、なんで田沼なんかと自分でも思っていたがそれは俺があいつのことを気になるから?
いやいや、恋でもしてる乙女じゃあるまいし!
「あ、あいつ… 田沼じゃん」
「え?」
田沼という言葉を聞いて我に帰ると学校の校門付近に田沼がこっちを見て突っ立っていた。
「キモ… こっち見てるし」
田沼、その目付きじゃそう言われても仕方ないぞと思いながらなんのことはなく俺は通り過ぎようとしていた、すると田沼が俺の肩に手を触れた。
「ちょっと! なんで西澤にあんたみたいなキモい奴が触ってんのよ?!」
「俺は別に何とも思ってないからいいだろ」
うるさい隣の女子に言うとそのまま俺の肩に手を置き田沼がボソッと呟いている。
「デュナミス… オープンセサミ」
「は? 開けゴマ??」
何やらわけのわからんことを呟いている田沼はまだ続く。
「ヴォミターレヴィリディス」
「うッ……」
「ちょッ! 西澤大丈夫?!」
猛烈な吐き気に襲われて膝をつく。
「インフォーマス、インカセラータ、アヴィアタス!」
次の瞬間俺の意識はブツリと途切れた。 気付けば暗闇… ではなく青空が広がっていた。
「大丈夫西澤?!」
「ああ、なんか知らんがぶっ倒れちまった」
「は? あんた何勘違いしてんの? あたしは西澤に話をしてんの!」
「え? は…… ?」
俺は言葉を失った、だって目の前に俺が倒れているのだから。 そして自分の両手を見る、自分の腕じゃない、これはすぐわかった。
だったら… この成り行きから考えて俺が俺を見ているってことはこの身体はもしかして田沼?!
「ちょっと!! 西澤が倒れたのあんたが何かしたんでしょ?!」
「そ、それはこっちが訊きたいくらいで」
「う……」
そこで目の前の俺が目を覚ます。 ってなんなんだ? 俺は俺なんだが……
「西澤ッ! もぉー心配したよ、急にこいつと一緒に倒れるんだもん」
そこらで段々と校門付近が俺達のことで騒がしくなってきた、周りは俺と田沼、そして俺を介抱している女子がうるさく騒ぎ立てたので先生がやって来た。
「こらーッ! さっさと校舎の中に入れ!!」
というかそれどころじゃない俺は校舎に向かいながらこの状況を分析した、これはもしや俺の身体には田沼の精神が俺の身体に入ったって解釈していいんだよな?
つーことは今俺の目の前を歩いて侮蔑な視線をこちらに振り返りチラチラ向けるあの俺は田沼……
校舎の中に入り俺はつい「おい田沼」と言ってしまう。
「俺は田沼じゃねぇぞクソ田沼、てめぇみてぇなナメクジ野郎と一緒にすんじゃねぇゴミが」
「そうよ、田沼の分際で」
こ、こいつら…… 俺は間違っても、心ではそう思っていてもそんな相手をこき下ろすような発言しないぞ! ストレスは溜まるけど。 つーかこのバカ女は俺にしつこく話し掛けてるくせにそんなことにも違和感持たないってどうよ? しかも俺も倒れたってのにまったく俺の心配ないのな。
これがいつもの田沼クオリティなのか。
「何されるかわかんないからこんなの放っておいてとっとと行こ?」
「ああ」
さり気なく俺の格好をした田沼かどうかはわからんが思しきそいつは女の肩に手を触れて撫でるように触り行ってしまった。
だから俺そんなのやらないって!!
ポツンと残された俺はひとり考える。
この状況で俺は自分の身体を取り戻せるんだろうか? 嫌われ者の田沼で。 多分これじゃきっと無理だ、俺の身体の多分田沼は絶対に返してくれそうにない。
だったらこのまま田沼として俺は生涯ずっとこれで生活しなきゃいけないってわけ? なんだよ、そんなの……
めっちゃ面白そうじゃんッ!!
西澤という男は存外この状況に適応してきていて西澤の身体の時の恵まれていた状態よりもこの状況が張り合いがあると思い始めていた。 何よりクソだと思っていた日常から入れ替わりなんてアニメや映画みたいな話だと思っていたことが現実に起きたのだ。
恵まれた自身のスペックに嫌気がさして頭のネジがどこかにすっ飛んでしまったのかもしれない。 だがこうなってしまった以上仕方ないと受け入れてしまう、この男もどこかおかしいのだ。
「おいーッす!!」
突如背後からの奇襲で前のめりに倒れた。 本日2回目、だが気絶はしてない。
「お前ただ突っ立ってるだけでキメェ」
「後ろ姿でもすぐわかるわそのキモさ」
「ギャハハッ」
おっと、いつものいじめっ子三馬鹿トリオ。 俺は立ち上がり田沼の身体でテストをしてみる。
「いってぇな、やられたからにはやり返していいよな?」
「お? 田沼のくせにやり返すって?」
「マジかこいつ?!」
「もしかして田沼のくせに勝てるとか思ってんのか、あーん?!」
そして盛大にぶちのめされたのだった俺が。 やはり田沼の身体は思った通り弱っちかった。 だが……
「くくくッ、俺弱ッ」
何故か笑いが込み上げた。
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