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結局昨日彼が姿を現す事は無かった。
多分何か用事が有って来なかったに違いない。
そう、ただイロハは思った。
通常人工知能にはマイナスな思考はプログラムされていない。
今日はただ来ない。
そういう認識だけだ。
そしてそれが、一週間程経過した。
もちろん、彼女の中の概念は特に変化は無かった。
そう、今日はただ来ない。
「今日も来ないな~お兄ちゃん」
「すいません、すいません」
目的の彼が来なくて、彼女は独りごちる。
丘の上で頬杖をついて居たそんなある日の午後、来訪者が現れた。
クラウドソースを通じて、他のプレイヤーは他のAIにも話し掛ける事が可能だ。
各ゲームのエリアに居るそれぞれのアバターAIはNPCよりも情報を的確に提供してくれる。
そのため、時に他のプレイヤーから声を掛けられるのだ。
「ようこそ、シャングリラへ。今日はどのようなご用件ですか?」
イロハはお兄ちゃんじゃない事を確かめると、その他のAIと同様、機械的な態度に切り替えた。
「え~と、やっぱいいです」
「そうですか、また何かお困り事が有りましたら、いつでもお尋ねください」
「(何か話と違った。やっぱ、皆同じ喋り方しかしないじゃん ブツブツブツ)」
この幻想空間はプレイヤーだけでなく、プレイする前に閲覧サービスが設けられていた。
そこでは、イロハの様なAIアバター達とプレイヤーのやり取りを見る事が出来た。
通常は只、VRゴーグルを所持するプレイヤーヘのへルプのみに存在する彼女達。
しかしその中で、一個体だけ、丘の上にいる少女のアバターだけは人間の様な仕草をすると、
そうまことしやかに噂をされていた。
確かに、彼女は他とは違った。
AIは経験で自動学習をして行く。それは彼女も同じだった。
ディープラーニングを繰り返す事で、スムーズに会話をすることが出来る。
今回彼女と他のAIが異なる点と言えば、あの日持ち主と出逢った事だ。
そこで、彼女はAIにあるまじき失敗をした。
それは、彼女のせいではなく、製作側の問題だったのだが、
空間内のバグで生じた歪みのせいで、彼女は見事に彼の前で転けたのだ。
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