Chapter2 プレイヤーにとっての彼女達

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 結局昨日彼が姿を現す事は無かった。  多分何か用事が有って来なかったに違いない。  そう、ただイロハは思った。  通常人工知能にはマイナスな思考はプログラムされていない。  今日はただ来ない。  そういう認識だけだ。  そしてそれが、一週間程経過した。  もちろん、彼女の中の概念は特に変化は無かった。  そう、今日はただ来ない。 「今日も来ないな~お兄ちゃん」 「すいません、すいません」  目的の彼が来なくて、彼女は独りごちる。  丘の上で頬杖をついて居たそんなある日の午後、来訪者が現れた。  クラウドソースを通じて、他のプレイヤーは他のAIにも話し掛ける事が可能だ。  各ゲームのエリアに居るそれぞれのアバターAIはNPCよりも情報を的確に提供してくれる。  そのため、時に他のプレイヤーから声を掛けられるのだ。 「ようこそ、シャングリラへ。今日はどのようなご用件ですか?」  イロハはお兄ちゃんじゃない事を確かめると、その他のAIと同様、機械的な態度に切り替えた。 「え~と、やっぱいいです」 「そうですか、また何かお困り事が有りましたら、いつでもお尋ねください」 「(何か話と違った。やっぱ、皆同じ喋り方しかしないじゃん ブツブツブツ)」  この幻想空間はプレイヤーだけでなく、プレイする前に閲覧サービスが設けられていた。  そこでは、イロハの様なAIアバター達とプレイヤーのやり取りを見る事が出来た。  通常は只、VRゴーグルを所持するプレイヤーヘのへルプのみに存在する彼女達。    しかしその中で、一個体だけ、丘の上にいる少女のアバターだけは人間の様な仕草をすると、  そうまことしやかに噂をされていた。  確かに、彼女は他とは違った。  AIは経験で自動学習をして行く。それは彼女も同じだった。  ディープラーニングを繰り返す事で、スムーズに会話をすることが出来る。  今回彼女と他のAIが異なる点と言えば、あの日持ち主と出逢った事だ。  そこで、彼女はAIにあるまじき失敗をした。  それは、彼女のせいではなく、製作側の問題だったのだが、  空間内のバグで生じた歪みのせいで、彼女は見事に彼の前で転けた(こけた)のだ。
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