アザレアは僕の・・・

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アザレアは僕の・・・

「婚約の打診が来た」 僕を執務室へ呼び出して、父上はそう言った。 僕が、王都のリザンナリ学園へ入学して半年が経つ。 タウンハウスから通っているのだが、前期学期が終わって初めての長期休暇。 ・・・僕は領地へ戻ってきていた。 父上が「14歳までには必ず婚約させるからな」とたのは、昨日のことだ。 僕は嫡男だから、夜会デビューは14歳ごろが定番。だけどそれまで。 「せめて1年は婚約の話は断ってくれるって意味ではなかったんですか?」 翌日に意見を覆すなど、あんまりだ。 つい、恨みがましく見てしまう。 「断りたいなら構わないが、打診はコデル伯爵家からだ」 「え?」 領地がお隣の伯爵家は一男一女だ。 アザレア以外の女の子はいなかったはずだ。 「・・・隠し子が見つかったんですか?」 父上はくつくつと笑う。 「コデル伯爵閣下はあれでかなりの愛妻家なんだぞ。 相手は、アザレア嬢だ。どうする?断るか?」 「だ、だって。彼女は治癒魔法を・・・」 昨日、父上と話したばかりだ。 アザレアは治癒魔法を顕現して、すぐに王都へ行ってしまった。 治癒魔法使いを優遇してくれる公爵家の庇護下にいると聞いていた。 領地ではそれくらいしか情報が入らなかった。 だけど。 王都の学園へ通うようになって、僕はいろいろ聞いて回って。 公爵家嫡男の婚約者候補のひとりと言われていることや。公爵家のお茶会へ参加していることや、治癒魔法の先生に教えを受けていることを知った。 彼女はいつだって前を向いている。婚約者候補から、婚約者になるべく努力を重ねているはずだ。 僕ももう、アザレアを諦めようとやっと思えた。 それでも。まだ辛くて。他のご令嬢との婚約の話は、もう少しだけ待ってくださいと昨日、父に頼んだところだった。 「急に治癒魔法が使えなくなったそうだ。それで、うちへ打診が来た。 あくまでも打診。正式な申し込みじゃないから、断ってもいいぞ」 魔法が使えなくなる?そんなことがあるのか。 彼女はがっかりしているだろうな。 「少し調べたんだが、どうやらあの子はふさぎ込んでいるらしい」やはりか。 父上はにやりとする。 「お前があまり社交的ではないから、結婚相手は社交が得意な女性がいいんだがな?やはり、断るか?」 僕の答えなど、わかっていたくせに。 「彼女は僕の恩人です。社交は僕が頑張ります」 父上はほとんど爆笑する。僕はこの人のこういうところが嫌いだ。 しかし。 父上はすっと真顔になった。 「最初から、受ける気ではいたが。 ・・・気になるのは、この婚約の条件なんだ。 我が領地が、伯爵領を通って王都へ出るのは知っているな? その通行料を無くすと言ってきている。 彼女がお前と婚約をしている間、そして伯爵家の血縁が子爵家に住んでいる間ずっと、としてある。 つまり、結婚してお前たちに子どもができれば。伯爵家が存続している限り、通行料を取られない。 商売も手広くなったから、助かる話だが・・・」 こ、こども・・・。 学校へ入って半年。ずいぶん友人もできて。 ・・・どうやったら、子どもができるのか、教えてもらったばかりだ。 なんだか恥ずかしくて口元を手で隠す。 父上はまたにやりとしていた。 「そんなに赤くなって。まだまだお前が純粋で嬉しいが、とりあえず話を聞け。 一度婚約の話が持ち上がりそうだった詫びともとれるが、その割に破格の条件だ。言いたくないが・・・。彼女自体になにか、問題がある可能性も高い。 それでもいいんだな」 父上の最後の言葉は確認ではなくて。 きちんと覚悟をしろよ、と聞こえた。 「はい、もちろんです」 彼女は僕の恩人なんだから。
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