アザレアは僕の・・・

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近隣の領地から王都へ行くときには、コデル伯爵家の領地を通られる方が多い。 伯爵家は堅実な領地経営をなさっているが、特に目立った産業はない土地で。 川へ橋を架けられたのは先々代の伯爵閣下。おかげで王都へ、かなりの近道が出来るようになった。その橋のおかげで入ってくる通行料は、それなりの収入源のはずだ。 架橋の時に協力をしたらしく、我が子爵家の通行料は安価設定だと聞いていた。それもあって、領地を通る時に伯爵閣下がいらっしゃれば、父上は挨拶に寄ると決めていた。 だから。 僕はアザレアをすごく小さい頃から知っていた。 あやめ色の髪につつじ色の瞳。たまに見かけては、可愛い子だな。と思ってた。 だけど。 7歳ごろから、一緒にお茶をしたり、お庭を散策したりするようになると。 生意気な子だな!って思った。 わがままっていうほどじゃないけど。好き嫌いが激しくって。きっぱりものを言う。ちっとも淑やかじゃない。 気が強くって。いつだって僕は振り回されてた。 お世話になってる伯爵家の子だから、仕方なく遊んでやっているんだぞって思ってた。 だけど。アザレアはどんどん綺麗になって。少し令嬢らしくなってきて。 それでも僕に喧嘩を売るところは変わらなくって。それが面白いなって思ってて。 婚約の話が出てるって聞いたのは僕が10歳の時。 ・・・なんだか嬉しかった。 あぁ、僕はアザレアが気に入っているんだなってわかった。 たぶん、あの日。正式な話があるはずだった。 僕たちは、庭へ散歩にでて。彼女の帽子が風に飛ばされて。 僕は木に登って取ってあげた。 ちょうど陽が射して、彼女のつつじ色の瞳が輝いていた。 嬉しそうに笑うアザレアに見惚れてしまった。 あと少しのところを枝をつかみ損ね。落ちて、どこかへ頭を打ち付けた。 打ち所が悪かったのか、すぐには起き上がれなくて。 いつもニコニコとしっかりしているアザレアが。 泣き出して。 ・・・びっくりした。 僕はそっちのほうが痛かった。 不思議なんだけど。僕のためにアザレアは泣いていると思うとなんだか嬉しくって。 泣いてるアザレアに、ごめんねと言うと。アザレアは目を見開いて。 いや!そう叫んで・・・・。 彼女は僕の血を止めてくれたそうだ。僕にはその辺からの記憶がない。 あれが、彼女の治癒魔法が顕現した出来事。 そのせいで、彼女は王都へ行ってしまった・・・。   ・ 僕が領地にいる間がいいだろうと、打診から2日。すぐに婚約を結んだ。 初めての婚約者としてのお茶会。 伯爵家へ来てくださいと言われ、僕は庭で彼女と会った。 3年ぶりだっけ?変わらない綺麗な髪は、ハーフアップにされて。美しい礼をしてくれた。 どうしたんだろう。 笑っているのに、笑っていない。 明るくて。何事にも一生懸命だったアザレアは。 気が強くって、なんでもはきはきとものをいう子だったアザレアは。 そこには居なくて。 彼女はなんだか憔悴していた。 視線がおどおどとしていて。あまり話さない。 はいとか、いいえとか。返事をするだけ。 どうしたんだろう。 とうとう話題もなくなって。 王都では、と僕が言いかけると何か思い出したようにびくっとする。 何があった?魔法が使えないことと関係がある? 治癒魔法・・・と呟くと。 アザレアは泣き出してしまった。 使えなくなったことがそんなに辛かったのか。 「ごめん」 つい駆け寄って頭をなでる。 「もう聞かないよ、ごめんね」 3年前と同じ、小さな女の子に見えて。僕はそっと肩を抱いた。 アザレアはぎゅっと僕にしがみついて、また泣き出す。 侍女は一瞬咎めようとしたけど。 「カラ兄さま」と小さいころのようにアザレアが呼んでくれたので。 何も言わず、アザレアが泣き止むまで。僕たちを見守ってくれた。 「わたくしは治癒魔法のことなど、まるでわかってなかったの」 それはそうだ、急に顕現したんだから。・・・僕のせいで。 アザレアは何かに怯えていた。 知らない人と会うのも、会話をするのも嫌そうだった。 放っておけなくて。 休暇が終わって王都へ戻るギリギリまで、できるだけ会いに行った。 アザレアは、町に遊びに行くのも嫌がったから、一緒にカードゲームをしたり、チェスをしたり。本を読んだりして過ごした。 コデル伯爵閣下は。アザレアが僕といるときには笑う、と嬉しそうに言ってくださって。 時々にはもう一日居てやってくれと泊めてまでくださった。 もちろん、一番アザレアの部屋から遠い客間だったけど。あの頃の僕にはその意味すら分かっていなかった。 閣下は変わってしまった娘をすごく心配していらした。 休暇が終わって、僕が王都へ戻るというと、彼女はまた泣き出して。 きっと僕と同じ学校に行くと言いはって聞かなかった。 本当にぎりぎりまで馬車に乗るのを遅らせて。手紙を書くよと言っても不安そうだった。 あの後期学期に届いた手紙の量は日数とほとんど変わらない程だ。 こんなに寂しがりだとは思わなかった。 あの頃には。 アザレアは僕の保護対象になっていた。
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