13人が本棚に入れています
本棚に追加
カラ兄さまはわたくしの・・・
12歳の検査の後・・・。
ただおびえるわたくしを。お父様が、抱きしめてくださって。
温かくって。ほっとして。
わたくしはつい。ぼそぼそと望みを言ってしまった。泣きながら・・・。
もう学園へ行きたくない。
もう誰とも会いたくない。
もうお家から出たくない。
・・・実際、それから数日をわたくしは自分の部屋から出ないで過ごした。
食事もあまり食べられなくて。心配したお父様は、わたくしを領地へ。お母様のそばへ行かせてくださった。
お母様も優しくしてくださったけれど。
領地でも、やっぱりわたくしはお部屋からほとんど出れなくて。
ただ。怖くて。
誰かと話すのも誰かと会うのも嫌で。
これでは、伯爵家のお役にも立てないわ。そう思うともっと辛くって。
カラ兄さまとの婚約の話が出ても怖かった。
なのに。
カラ兄さまはお優しかった。いつも一緒にいてくださった。
外に出たくないと言うわたくしに本を贈ってくださった。
秘密の場所だから誰とも会わないよと川遊びに連れて行ってくださった。
少しずつ。外に出れたのは、カラ兄さまのおかげで・・・。
平気な顔で婚約解消を受け入れながら。わたくしが考えていたのは。
カラ兄さまが居なくってわたくし生きていけるのかしら。ってこと。
でもだめ。これ以上兄さまに迷惑はかけられないわ。
呪いは解けたのだもの。これからは、もっとしっかりと生きていけるわ・・・たぶん。
・
「アザレアが好きなんだ。ずっとそばにいてください」
その言葉だけが、何回も頭の中で繰り返される。
兄さまが、わたくしを好き?・・・それは妹として?
「兄さまは・・・カランコエ様はひどいわ」
学校に入ってから、わたくしは兄さまと呼ぶのをやめた。
それは、妹扱いしてほしくなかったから。
お母さまから「妹だと思われたら、他のご令嬢にカランコエ様を取られてしまうわよ」と揶揄われたから。
初めて呼んだとき、カランコエ様は嬉しそうにしてくださったわ。
いつだって、わたくしだけを特別にしてくださった。
隙をついて彼に話しかけるご令嬢はもちろん居たけれど。そんな方とはきちんと距離をとってくださっていた。
仕方なく結ばれた婚約だというのに、わたくしを婚約者として扱ってくださった。わたくしの色の服や装飾品を身に着けてくださった。
おかげで。社交もできないこんなわたくしでも、他のご令嬢から軽く扱われなくて済んだとわかっているわ。
いつだってわたくしを守ってくださった。
「あなたがいないと何にもわからないくらい、わたくしを甘やかしたくせに」
どう考えたら、わたくしが。他の人を想っているなんて結論になるのよ。
他になんて言ったらいいのかわからなくって。また頬を膨らましてしまう。
どうしてわたくしは、カランコエ様の前だとこんなに子どもっぽいのかしら。
一瞬、わたくしをじっと見たカランコエ様は。
わたくしの隣へ移ってこられた。
「動いている馬車で立ち上がっては危ないわ」
横に腰掛けた彼を叱る。
その体重移動に気づいたらしい子爵家の御者は、馬車の速さを落とした。
カランコエ様はぴたりと隣へ座ってる。
「近いわ」
「そう?」
確かに、わたくし達はいつもこれくらい近いけど。
・・・なにか違う。
確かに、カラ兄さまはいつもの優しい視線でわたくしを見てるんだけど。
・・・なにか違うの。
いつのまにか、腕が背中にまわされて。カランコエ様の手のひらが。わたくしの腰より少し下の位置に充てられる。
その手の感触が・・・わたくしをどきどきさせる。
「アザレア?」
カランコエ様は平気で耳元に口を近付ける。
ぞくりとした。
こんな感覚は初めてで。
何が恐いんだろう?
くくっと彼の喉の奥で音がして。
わたくしは少し体を離して。カランコエ様の顔をじっと見上げてしまう。
初めて見る表情だわ。
にやりとしたような悪い顔。
「カラ兄さま?」
「あぁ。そう呼ばれるのもいいな。
アザレア・・・駄目だよそんな顔をしては」
そのセリフはあなたに言いたいわ。
その瞳が怖い。わたくしを見つめすぎだわ。
カランコエ様はわたくしの腰を引き寄せる。その胸に飛び込むようになってしまって・・・恥ずかしいのに。
・・・もっと抱きしめてほしい?
いやだ、何を考えているのかしら。
カランコエ様はそっとわたくしの頭へ口づけられて。
「他の人にもこんな風にされたことがある?」
当たり前だわ。何をお聞きになるのかしら?
「ええ、もちろん」
ぎゅっと彼の腕に力がこもる。
「お父様もお母様もいつもこうしてくださるわ」
・・・沈黙の後に。またもくくっと笑って。カランコエ様は・・・。
!
わたくしの頬へ口付けなさった。
「あ・・あの・・・」
言葉にならないわたくしをまたじっと見て。
「こんな風にされたことは?」
今度は・・・質問の意味がわかったわ。
その優しくて熱い口付けは。家族のおやすみの挨拶とは違うもの。
わたくしは首を横に振るのが精一杯で。
カランコエ様は黒い笑みを広げる。
「あぁ、僕は自分がこんなに狭量だなんて知らなかったよ」
兄さまはいつだって誰にだってお優しいわ。
狭量だなんてとんでもないわ。
ぽかんとしてしまうわたくしの唇にそっと。彼の指が伸びてきて。
「ここに、口付けられたことは?」
軽い口調に聞こえるのに。
・・・怖いくらいに重くって。
わたくしはまた首を横に振ることしかできなかった・・・。
最初のコメントを投稿しよう!